- 本の紹介
- アメリカにおける法定監査以前の財務ディスクロージャーと会計士監査に関する起源と発展の軌跡を、オリジナル資料をもとに解明し、その本質を明らかにする研究書。
- 担当編集者コメント
- 「歴史を知ると本質がわかる」との視点から、財務ディスクロージャーと会計士監査の進化の過程について明らかにし、経営者の「論理」と会計士の「理想」とのギャップを浮き彫りにしている研究書です。
◆本書の概要
本書は、アメリカにおける法定監査(1933年証券法・1934年証券取引所法に基づく財務諸表監査)以前の財務ディスクロージャーと会計士監査の展開について研究するものです。
アメリカを代表する金融・証券の週刊誌であるThe Commercial & Financial Chronicleの1865年(第1巻第1号)から1921年までの56年間全113巻(合計2949号)に掲載された経済・経営・会計に関する情報とアメリカ会計士協会(当時)の機関紙The Journal of Accountancyの1905年(第1巻第1号)から1935年までの30年間全60巻の「論説」をベースに、ニューヨーク証券取引所上場の製造会社約60社の実際の株主宛年次報告書を吟味しています。
そして、“Big 8”会計事務所史や14州の公認会計士会史、Moody’s Industrials(1925年末4,070社、1932年末3,008社)も検討し、英国のPrice, Waterhouse& Co. とDeloitte & Co., 著名な公認会計士の回顧録等も活用されています。
アメリカ企業の財務ディスクロージャーと会計士監査は、19世紀後半の鉄道会社から始まります。そして、製造業幕開けの1890年代に登場したのがGeneral Electricです。本書では、同社の第1期(1893年1月期)から1934年度まで42年間の年次報告書における財務情報と監査報告書について詳細に分析しています。
1900年中頃から1930年代前半までの製造会社の財務ディスクロージャーと監査の進化については、名門Westinghouse, 農機具最大手のInternational Harvester, 製鉄業界トップ3社のU.S. Steel, Bethlehem Steel、Republic Iron & Steel, 伝統あるProcter & Gamble とAmerican Sugar, NCR, Eastman Kodak, National Biscuit、ラバー業界ライバル3社のGoodyear Tire , B.F. Goodrich, U.S. Rubber, 約40年間以上にわたって支配と従属の関係にあったE.I. du Pont とGeneral Motors、業界最大手のStandard OilとAmerican Tobacco, International Paper, Caterpillar Tractor, 新進のCoca-ColaとChrysler 等を取り上げています。
最後に、攻めるニューヨーク証券取引所と守るAllied社について紹介します。
◆本書の位置づけ
著者のこれまでの研究は、アメリカの法定監査以前に係るもの(『アメリカ監査制度発達史』中央経済社・1984年、『貸借対照表監査研究』中央経済社・2008年)と、同国における職業会計士の萌芽である1860年代から今日までの150年間の通史(『公認会計士』文理閣・1987年、『アメリカ監査論』中央経済社・1994年、『闘う公認会計士』中央経済社・2014年)の2つに分類できます。
本書『財務ディスクロージャーと会計士監査の進化』は、法定監査以前のディスクロージャーと会計士監査の展開について『アメリカ監査制度発達史』の未解明部分を究明しており、これにより著者50年にわたるアメリカの監査研究が完結したといえます。
◆目次
第1章 鉄道会社の財務ディスクロージャーと職業会計士監査導入の真の理由
第2章 1900年頃までの製造会社の財務ディスクロージャー
第3章 GEの創立(1892年度)~1900年度の財務ディスクロージャー
第4章 GEの1901年度~1910年度の財務ディスクロージャー
第5章 GEの1911年度~1925年度の財務ディスクロージャー
第6章 GEの1926年度~1934年度の財務ディスクロージャー
第7章 Westinghouseの財務ディスクロージャー
第8章 1906、07、08年頃の製造会社の財務ディスクロージャー
第9章 1910年代の製造会社の財務ディスクロージャー
第10章 1910年代中頃以降のライバル3社の財務ディスクロージャー
第11章 支配会社と従属会社の財務ディスクロージャー
第12章 Standard Oil、American Tobacco、Coca-Colaの財務ディスクロージャー
第13章 1920年代の製造会社の財務ディスクロージャー
第14章 「新興会社」と「名門会社」の財務ディスクロージャー
第15章 U.S. Steel の財務ディスクロージャー
第16章 要約:財務ディスクロージャー
第17章 要約:職業会計士による財務諸表監査
第18章 ニューヨーク証券取引所
第19章 攻めるニューヨーク証券取引所と守る経営者
〔著者紹介〕
1966年 早稲田大学第一商学部卒業
1968年 早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了
1968年 鹿児島経済大学助手、講師、助教授(~1976年)
1976年 立命館大学経営学部助教授(~1984年)
1984年 立命館大学経営学部教授(~2006年)
2006年 立命館大学大学院経営管理研究科教授(~2009年)
2009年 熊本学園大学大学院会計専門職研究科教授(~2012年)
2012年 早稲田大学大学院会計研究科教授(~2013年)
2013年 公認会計士・監査審査会会長(~2016年)
現 在 立命館アジア太平洋大学客員教授、経営学博士 、公認会計士
1973年 チュレイン大学大学院留学(~1974年)
1981年 ライス大学客員研究員(~1982年)
1992年 アメリカン大学客員研究員(~1993年)
1998年 公認会計士試験第2次試験委員 (~2000年)
2007年 公認会計士第3次試験委員(~2010年)
日経・経済図書文化賞
日本会計研究学会太田賞
日本内部監査協会青木賞
日本公認会計士協会学術賞
辻 真会計賞
<主要著書>
単 著
『新版会計学入門―会計・監査の基礎を学ぶ』(第5版)、中央経済社、2018年
『闘う公認会計士―アメリカにおける150年の軌跡』中央経済社、2014年
『監査役に何ができるか?』(第2版)、中央経済社、2013年
『現代会計監査論』(全面改訂版)、税務経理協会、2009年
『会計学入門―会計・税務・監査の基礎を学ぶ』(第9版)、中央経済社、2008年
『貸借対照表監査研究』中央経済社、2008年
『日本会计』李敏校閲・李文忠訳、上海財経大学出版社、2006年
『課長の会計道』中央経済社、2004年
『監査論の基礎』税務経理協会、1998年
『アメリカ監査論-マルチディメンショナル・アプローチとリスク・アプローチ』中央経済社、1994年
『公認会計士―あるプロフェッショナル 100年の闘い』文理閣、1987年
『アメリカ監査制度発達史』中央経済社、1984年
共 著
『会計監査と企業統治』(『体系現代会計学第7巻』)千代田邦夫 ・鳥羽至英編著、中央経済社、2011年
『公認会計士試験制度』日本監査研究学会編、第一法規、1993年
『新監査基準・準則』日本監査研究学会編、第一法規、1992年
『監査法人』日本監査研究学会編、第一法規、1990年
共 訳
『ウォーレスの監査論―自由市場と規制市場における監査の経済的役割』千代田邦夫・盛田良久・百合野正博・朴 大栄・伊豫田隆俊、同文舘出版、1991年