保守主義会計―実態と経済的機能の実証分析

髙田 知実

定価(紙 版):4,840円(税込)

発行日:2021/09/09
A5判 / 256頁
ISBN:978-4-502-39651-9

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本の紹介
多くの批判にさらされながらも、その重要性が認められてきた保守主義会計。本書は実証会計理論の枠組みを利用して、その実態を分析し、そして経済的機能を解明する。

目次

序 章 問題提起と本書の構成
1 本書の目的と議論の背景
2 本書における保守主義の定義
3 保守主義に関する論点整理と本書での分析アプローチ
4 本書の構成

第Ⅰ部 保守主義会計の実態に関する分析
第1章 保守主義の定量化
 1 本章の目的と構成
 2 Basuモデル
   2.1 逆回帰(reverse regression)モデルによる定量化
   2.2 Basuモデルの構造
   2.3 保守主義会計の事例
   2.4 K&Wモデル
 3 Basuモデル以外の定量化モデルと指標
   3.1 利益変化モデル
   3.2 B&Sモデル
   3.3 Givoly and Hayn (2000)による保守主義の指標
 4 要約
 補論1  Basuモデルの導出
 補論2  Basuモデルの有効性に関する議論
 補論3 無条件保守主義の定量化と条件付保守主義との関係

第2章 日本企業における保守主義
 1 本章の目的と構成
 2 モデルに基づく保守主義の定量化
   2.1 分析モデルと期間
   2.2 Basuモデル
   2.3 利益変化モデル
   2.4 結果の要約
 3 保守主義と財務変数
   3.1 利益変数と損失計上
   3.2 特別損益項目
   3.3 会計発生高
   3.4 各指標の相関関係
 4 K&Wモデルの適用
   4.1 期待される結果
   4.2 基本統計量
   4.3 推定結果
 5 要約
 補論 CスコアとBasuモデルの関係

第3章 保守主義の国際比較分析
 1 本章の目的と構成
 2 先行研究のレビュー
   2.1 Ball et al. (2000)の研究
   2.2 制度的要因
   2.3 欧州における比較分析
   2.4 企業レベルの動機が及ぼす影響
 3 分析内容
   3.1 分析の前提
   3.2 分析モデルとサンプル
 4 分析結果
   4.1 国ごとの推定結果
   4.2 各国における年ごとの推定結果
   4.3 Ball et al. (2000)との比較
 5 要約

第II部 保守主義の経済的機能に関する実証分析
第4章 先行研究のレビュー
 1 本章の目的と構成
 2 保守主義の経済的機能に関する説明理論
   2.1 債務契約における機能
   2.2 投資の効率性に及ぼす影響
   2.3 その他の機能
 3 債務契約における保守主義の機能
   3.1 債務契約における事後的機能
   3.2 債務契約における事前的機能
   3.3 その他の政策との代替的関係
 4 コーポレート・ガバナンスにおける保守主義の機能
   4.1 株式保有を通じたガバナンス
   4.2 企業内部のガバナンス環境
   4.3 外部監査によるガバナンス
 5 要約

第5章 日本企業における債務契約と保守主義
 1 本章の目的と構成
 2 配当の決定と保守主義
   2.1 日本企業における配当政策
   2.2 分析内容とサンプル
   2.3 分析結果
 3 銀行からの借入れと保守主義
   3.1 日本企業における銀行借入れ
   3.2 分析内容とサンプル
   3.3 分析結果
   3.4 メインバンクの特徴を考慮した分析
 4 要約

第6章 日本企業におけるコーポレート・ガバナンスと保守主義
 1 本章の目的と構成
 2 日本企業におけるガバナンスの特徴
   2.1 ガバナンス改革
   2.2 会計・監査制度の改革
   2.3 外部監査の実務変遷
 3 ガバナンス要因と保守主義の関係
   3.1 株式所有構造
   3.2 取締役会の特徴
   3.3 外部監査の特徴
 4 分析モデルとサンプル
 5 分析結果
   5.1 基本統計量
   5.2 ガバナンス変数の推定結果
   5.3 ガバナンス因子の推定結果
 6 要約

終 章 結論と課題
1 本書での発見事項
2 貢献と課題

引用文献
索  引

著者紹介

髙田 知実(たかだ ともみ)
[プロフィール]
2002年 関西大学商学部卒業
2007年 神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了、神戸大学より博士(経営学)の学位取得
2007年 神戸大学大学院経営学研究科准教授(現在に至る)
2014年 Boston College Carroll School of Management客員研究員(2014年9月〜2015年12月)

[主な著作]
“Same information, different value: New evidence on the value of voluntary assurance” Journal of Accounting and Public Policy (forthcoming)(共著)
“How cross-shareholding influences financial reporting: Evidence from Japan” Corporate Governance: An International Review 28: 309-326, 2020.(共著)
“Managerial ownership and accounting conservatism in Japan: A test of management entrenchment effect” Journal of Business Finance and Accounting 37: 815-840, 2010. (共著)
「経営者の裁量行動と継続企業の前提に関する追記の開示」『会計プログレス』9: 61-77, 2008.(日本会計研究学会学会賞受賞論文, 単著)
「利益/株価比率を利用した保守主義の定量化」『経済経営研究』56: 1-38, 2007.(兼松フェローシップ受賞論文, 単著)

担当編集者コメント
〇本書の意義
本書の目的は,保守主義会計の実態とその経済的機能を明らかにすることです。これら2つの研究目的の背後には,幾度となく批判にさらされながらも,長らく排除されることなく存在し,その重要性が認められてきた保守主義会計の存在理由を解釈するという大きな研究課題があります。保守主義の存在理由を示すためには,その存在自体を把握することと,なぜ保守主義が存在するのかという説明が必要となるでしょう。
本書は,実務を説明し,予測することにその特徴がある実証会計理論の枠組みを利用して,その実態を分析し,そして経済的機能を解明しています。

具体的には,以下の点を明らかにしています。
①これまで国際的に解明されてきた研究成果を体系的に要約することで,保守主義会計の是非を議論するうえでの基礎材料を提供していること。
②長期間にわたる日本企業の分析を中心としながらも,海外企業に関する条件付保守主義も定量化することで,その実態を解明していること。
③保守主義会計の是非に関する議論の際,証拠に基づく議論を可能にするために,日本企業における条件付保守主義の経済的機能を解明していること。

日本の企業会計における保守主義に関する理解を深め,さらに財務会計の経済的機能を再確認することにつながる研究書です。