伝わる開示を実現する「のれんの減損」の実務プロセス
- 本の紹介
- 額も時期も投資家の不満となりやすい、のれんの減損。減損会計基準・見積開示会計基準・記述情報・KAMの実務・事例を繙き、会計・開示コミュニケーションの進め方を説く。
目次
はじめに
第1章 減損コミュニケーションの必要性
01 減損の開示コミュニケーションを再考すべき時期
⑴ 現状の開示は果たして十分か
⑵ 減損会計基準の PL 注記では不十分
⑶ 注記事項のデザインの適切性
02 注記事項よりも会計処理に重きが置かれた減損会計
⑴ 損失を先送りしないことが最優先
⑵ 企業会計審議会における注記議論
⑶ ASBJ における注記議論
03 減損プロセスの「見える化」
⑴ 損失先送りの疑念が払拭できない
⑵ 最近の開示制度による後押し
⑶ 優良事例を活用するために必要なこと
第2章 減損プロセスと PL 注記
01 減損プロセスの全体像
02 のれんの減損の判定単位 (減損プロセスの前提)
⑴ 資産のグルーピング
⑵ のれんの分割
⑶ のれんの配分
⑷ 決算資料で引き継ぐべき2つの事項
03 のれんの減損の兆候
(減損プロセスのステップ1)
⑴ 減損の兆候を検討しなければならない理由
⑵ 減損会計基準等における減損の兆候の例示
⑶ 企業結合会計基準における減損の兆候
⑷ 子会社株式の減損処理に関する留意事項
⑸ リスクマネジメントに基づく判断
04 のれんの減損損失の認識
(減損プロセスのステップ2)
⑴ 論点は割引前将来キャッシュ・フローの見積り期間
⑵ 原則法 (より大きな単位)による判定方法
⑶ 容認法 (資産グループに配分)による判定方法
⑷ ステップ2の「見える化」に重要な事項
05 のれんの減損損失の測定
(減損プロセスのステップ3)
⑴ 論点は割引率の設定
⑵ 原則法 (より大きな単位)による測定方法
⑶ 容認法 (資産グループに配分)による測定方法
⑷ 資本コストに基づく経営を踏まえた割引率
06 減損会計基準等に基づく PL 注記
⑴ 要求事項
⑵ PL 注記の記載状況
⑶ 根源的な問題点
第3章 見積開示会計基準に基づく注記
01 改善の余地がある見積開示の注記事例
02 見積開示会計基準が求められた背景
⑴ 見積りの不確実性についての説明責任
⑵ 自発的な開示の実効性
⑶ 最初の提案は JICPA
⑷ 続く提案は日本証券アナリスト協会
⑸ 企業にとっての開示する意義
⑹ IAS 第1号第125項の理解が不可欠
03 海外における IAS 第1号第125項の適用状況
⑴ IAS 第1号第125項のエッセンス
⑵ FRC レポートにおける発見事項
⑶ IAS 第1号第125項や FRC レポートの受入可能性
04 見積開示会計基準で押さえるべきポイント
⑴ 開示目的に照らした判断が意味するもの
⑵ 会計上の見積りの内容を表す項目名
⑶ 当年度の財務諸表に計上した金額
⑷ 財務諸表利用者の理解に資するその他の情報
⑸ 個別財務諸表における取扱い
⑹ 金融商品取引法の年度の財務諸表以外の取扱い
05 注記の作成の仕方
⑴ 我が国の適用初年度における開示状況
⑵ 注記の型
⑶ 重要な会計上の見積りを識別していない場合の開示
06 のれんの減損についての見積開示とその事例
⑴ 開示する項目として識別すべき必要性
⑵ 重要な会計上の見積りの項目名
⑶ 当連結会計年度の連結財務諸表に計上した金額
⑷ 金額の算出方法
⑸ 重要な会計上の見積りに用いた主要な仮定
⑹ 翌連結会計年度の連結財務諸表に与える影響
07 関係会社株式の評価についての見積開示とその事例
⑴ 関係会社株式の評価が論点となる場合
⑵ 重要な会計上の見積りの項目名
⑶ 当事業年度の財務諸表に計上した金額
⑷ 金額の算出方法
⑸ 重要な会計上の見積りに用いた主要な仮定
⑹ 翌事業年度の財務諸表に与える影響
08 見積開示会計基準に基づく注記作成のポイント
⑴ 3つの要素を満たす事項を抽出すること
⑵ 主要な仮定を絞り込むこと
⑶ 影響を定量的に示すこと
第4章 記述情報による開示
01 有価証券報告書における記述情報の概要
⑴ 継続的な開示コミュニケーションを可能にする記述情報
⑵ ディスクロージャーワーキング・グループの報告書
⑶ 記述情報が求める「会計上の見積り」の内容
⑷ 見積開示会計基準との相違
02 重要な会計上の見積りや仮定に関する記述情報の開示
⑴ のれんの減損の判定単位 (グルーピング)
⑵ 減損の兆候に関する記述情報
⑶ 減損損失の認識に関する記述情報
03 事業等のリスクに関する記述情報
⑴ 事業等のリスクの充実が図られた背景
⑵ 買収実行時の対応策に関する記述情報
⑶ 買収実行後の対応策に関する記述情報
⑷ 開示内容の違いがもたらすもの
04 監査役等の監査に関する記述情報
⑴ 監査役等の活動状況に関する開示の必要性
⑵ 英国の監査委員会による開示状況
⑶ 我が国の監査役等による主な検討事項の開示
05 記述情報による開示の活用
第5章 減損の監査対応
01 継続的な開示コミュニケーションに至らない深層背景
02 過度に保守的な開示が貫けない KAM
⑴ 未公表ではいられない減損リスクマネジメント
⑵ KAM の制度趣旨
⑶ KAM における企業の未公表情報の取扱い
⑷ のれんの減損に関する KAM 事例
⑸ 企業による KAM 対応
⑹ 見積開示会計基準は KAM の受け皿か
03 見積監査の対応で減損リスクに取り組まざるを得ない
⑴ 減損に関するリスクマネジメントに迫られる
⑵ 会計上の見積りに関する監査の動向
⑶ 「見積りの不確実性の理解」への監査対応
⑷ 「見積りの不確実性への対処」への監査対応
⑸ 経営者が適切に理解・対処していない場合
⑹ 会計上の見積りに関する監査対応
04 ありのまましか開示できない「その他の記載内容」
⑴ その他の記載内容に対する手続強化
⑵ 改正監基報72 0に基づき実施される手続
⑶ 重要な相違は押し通せない
05 企業が採るべき最も経済合理性のある選択肢
第6章 気候変動が減損に与える影響
01 気候変動は金融リスクと認識すべし
⑴ 座礁資産
⑵ TCFD の設立とパリ協定
⑶ TCFD による提言
02 IFRS 会計基準と気候変動リスク
⑴ ニック文書
⑵ 機関投資家からの要求
⑶ IFRS 財団による教育資料
⑷ CDSB によるサポート資料
⑸ 財務諸表監査への対応
03 のれんの減損開示における気候変動リスク
⑴ 財務諸表の注記事項
⑵ 監査人による KAM
04 Are You Ready?
⑴ 日本における気候変動の注記と KAM
⑵ すでに対応に迫られている日本企業
おわりに
- 担当編集者コメント
- 【本書の特徴】
―投資家の不満になりやすい「のれんの減損」
従来,「のれんの減損」は,損失計上されない限り,どんなに減損リスクが高かったとしても関連する情報が開示されることはなく,投資家にとってはその計上額も計上のタイミングも不満となりやすい項目でした。ところが近年,見積開示会計基準や有価証券報告書上の記述情報の充実を図る開示府令の改正,KAMの導入など,開示ルールの整備が進み,そうした開示のあり方や状況が変わりつつあります。
―制度趣旨を踏まえたルールの解説・事例の紹介
本書は,減損会計基準で規定される「のれんの減損」の基本的なルールを確認したうえで,上記の会計基準や開示ルールについて,その制度趣旨も踏まえた解説を行うとともに,それらのルールが参考にしている海外の制度についても検討を加えています。さらに,そうした制度趣旨を適切に理解していると考えられる開示例を厳選・紹介しています。
―「読まれる有価証券報告書」を実現するために
とはいえ,本書は単なる会計基準や開示例の解説書ではありません。通り一遍の情報ではなく,企業の想い,魅力,そして固有の情報がしっかり伝わる開示,投資家との建設的な対話を実現するための《ダイアローグ・ディスクロージャー》の実践を説きます。
【本書の構成】
第1章 減損コミュニケーションの必要性
減損の開示コミュニケーションを再考すべき時期/注記事項よりも会計処理に重きが置かれた減損会計/減損プロセスの「見える化」
第2章 減損プロセスとPL注記
減損プロセスの全体像/のれんの減損の判定単位/のれんの減損の兆候/のれんの減損損失の認識/のれんの減損損失の測定/減損会計基準等に基づくPL注記
第3章 見積開示会計基準に基づく注記
改善の余地がある見積開示の注記事例/見積開示会計基準が求められた背景/海外におけるIAS第1号第125項の適用状況/見積開示会計基準で押さえるべきポイント/注記の作成/のれんの減損についての見積開示とその事例/関係会社株式の評価についての見積開示とその事例/見積開示会計基準に基づく注記作成のポイント
第4章 記述情報による開示
有価証券報告書における記述情報の概要/重要な会計上の見積りや仮定に関する記述情報の開示/事業等のリスクに関する記述情報/監査役等の監査に関する記述情報/記述情報による開示の活用
第5章 減損の監査対応
継続的な開示コミュニケーションに至らない深層背景/過度に保守的な開示が貫けないKAM/見積監査の対応で減損リスクに取り組まざるを得ない/ありのまましか開示できない「その他の記載内容」/企業が採るべき最も経済合理性のある選択肢
第6章 気候変動が減損に与える影響
気候変動は金融リスクと認識すべし/IFRS会計基準と気候変動リスク/のれんの減損における気候変動リスク/Are You Ready?