防衛調達論

西口 敏宏
森光 高大

定価(紙 版):4,620円(税込)

発行日:2022/04/28
A5判 / 184頁
ISBN:978-4-502-42711-4

送料について
本の紹介
政府調達の中でも、多くの予算が割かれ、かつ国の安全保障を左右する「防衛調達」。本書は、この防衛調達の現状、そしてあるべき姿を組織論と管理会計の立場から検証する。

目次

はしがき

第1章 問題設定と研究背景
    今,何が起こっているのか
    学術的な研究対象としての「防衛調達」
    防衛調達に関する多様な論点
  本書の研究課題
  本書の構成

第2章 防衛調達の歴史と現況
  防衛調達における歴史的経緯の概観
    警察予備隊・海上警備隊の創設
    保安庁の設置
    防衛庁への改編
    「調達物品の予定価格算定に関する訓令」と予定価格算定
    方法の確立
    調達改革の実施
    その後の展開と防衛省への移行
  「事案」の多発
    4社事案の発覚に端を発する過大請求事案
    G社事案
    事案からのインプリケーション
  まとめ─防衛調達の背景と現状

第3章 調達契約の理論的検討
  「取引」の理論的背景
    新古典派経済学における市場観
    Coaseの取引コスト理論
    Williamsonの取引コスト理論
  取引コスト理論を裏付ける実例
    自動車産業のサプライチェーン
    パラレル・ソーシング(併社発注)
    自動車産業の実例と取引コスト理論
  競争入札拡充の失敗事例
  まとめ─競争入札は「是」か「非」か?

第4章 防衛調達における価格決定構造
  「原価計算方式」の価格決定構造
    契約価格の構成要素
    利子率の計算構造
    利益率の計算構造
  防衛調達における原価計算の特徴と課題
    「原価計算方式」のインセンティブ問題
    「工数」という難敵
  コスト・シフティング仮説(cost-shiftinghypothesis)
    コスト・シフティング仮説の概要
    コスト・シフティング仮説に関する先行研究
  まとめ─原価に基づく価格決定の課題

第5章 インセンティブを誘引する契約
  防衛省の現行の取り組み
    恒常的業務としての制度調査
    コスト・データベースの整備
    コスト・データベースの潜在的役割期待
  インセンティブを誘引する契約形態の検討
    インセンティブの本質とは?
    現行のインセンティブ制度の思考
    共同履行管理型インセンティブ契約制度
  インセンティブを含む契約制度の検討
    コスト・プラス・インセンティブ・フィー契約
    非対称性の緩和とインセンティブの関係性
  まとめ─インセンティブを創出する契約形態に向けて

第6章 適切な調達形態を求めて
  防衛調達における「効率性」
  民間調達からのインプリケーション
    クロスファンクショナル(職能横断型)組織の概要
    クロスファンクショナル組織の実効的役割
  クロスファンクショナル組織の活用例
    トヨタ自動車の事例
    日産自動車の事例
  先進諸外国の防衛調達の基本姿勢と取り組み
  まとめ─クロスファンクショナル組織からの示唆

第7章 調達プロジェクトの一貫した管理
  英国におけるスマート・プラクティス政府化
  スマート・プロキュアメント政策
  IPT(integrated project team)の導入
    英国防調達におけるIPTの導入経緯
    英国防調達におけるIPTの基本的な概念
    英国防省の主要なプロジェクトにおけるIPTの成果
    IPTの果たした役割の分析
    産業界とのパートナリング
  その他の諸外国におけるIPT
  まとめ─各国IPTからの示唆

第8章 日本の防衛調達におけるプロジェクト管理
  日本の防衛調達におけるIPT導入の経緯
    IPT導入の契機と各種委員会報告書における議論
    トヨタ自動車への人員派遣
    試験的なIPTの設置
  防衛装備庁の新設
    防衛装備庁新設の背景
    防衛装備庁の機能と意図
  日本におけるIPTの今後の役割期待
  まとめ─日本におけるプロジェクト管理への取り組みとIPT

第9章 防衛調達における原価企画の適用可能性
  原価企画の概要
    原価企画の基本概念
    原価企画に関する先行研究
  防衛調達における原価企画
    防衛調達における原価企画の有用性
    防衛調達における原価企画の適用可能性
    原価企画におけるクロスファンクショナル組織の役割
  まとめ─防衛調達における原価企画

第10章 より良い調達に向けて
  本書の総括
    第1~2章
    第3~5章
    第6~9章
  本書での検討から得られた知見
    一律な競争入札拡充への批判
    一般産業界の慣行と「資産の特殊性」
    先進諸外国の取り組み
    情報の非対称性の緩和
    インセンティブを創出する契約形態の追求
    防衛調達特有の制約
  まとめ─より良い調達に向けて

著者紹介

西口 敏宏(にしぐち としひろ)
[プロフィール]
一橋大学名誉教授・武蔵大学客員教授

1952年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。ロンドン大学社会学修士(M.Sc.),オックスフォード大学社会学博士(D.Phil.), MIT(マサチューセッツ工科大学)研究員,INSEAD(インシアード,欧州経営大学院)博士後研究員,ペンシルベニア大学ウォートン・スクール助教授を経て,1994~1997年一橋大学産業経営研究所助教授,1997~2018年一橋大学イノベーション研究センター教授,2018年より現職。政府調達,民間サプライチェーン・マネジメント,新華僑の国際ネットワーク等を実証的・理論的に研究。財務省,経済産業省,防衛省,連合等政府・労組の委員および,学会理事等を歴任。2003年防衛調達改革への功績により防衛庁表彰。ケンプリッジ大学,メリーランド大学,MIT, オックスフォード大学 各上級客員研究員。財務省財務総合政策研究所・特別研究官(2008年~現在)。

[主な著作]
『コミュニティー・キャピタル論』(共著,光文社新書,2017)
『コミュニティー・キャピタル一中国・温州企業家ネットワークの繁栄と限界』(共著,有斐閣,2016, 平成28年度中小企業研究奨励賞 経済部門 本賞受賞・2017年度日本ベンチャー学会清成忠男賞 書籍部門 受貨)
『ネットワーク思考のすすめ』(東洋経済新報社,2009)
『遠距離交際と近所づきあい』(NTT出版,2007)
『中小企業ネットワーク』(編著,有斐閣,2003)
『戦略的アウトソーシングの進化』(東京大学出版会,2000, 中国語訳『戦略性外包的演化』上海財経大学出版社,2007)
Knowledge Emergence(共編著,Oxford University Press, 2001)
『リーデイングス サプライヤー・システム』(共編著,有斐閣,1998)
Managing Product Development(編著,Oxford University Press, 1996, 米国シンゴウ製造業研究優秀賞)Strategic Industrial Sourcing(Oxford University Press,1994,米国シンゴウ製造業研究優秀賞・全米図書館協会『チョイス』誌最優秀学術書賞・日経経済図書文化賞)

森光 高大(もりみつ たかひろ)
[プロフィール]
西南学院大学商学部准教授

1985年生まれ。横浜国立大学経営学部卒業。一橋大学大学院商学研究科修士課程修了(商学
修士),一橋大学大学院商学研究科博士後期課程修了(商学博士),一橋大学大学院商学研究
科特任講師,日本経済大学経営学部准教授を経て,現職。
専攻は管理会計。防衛装備庁特別研究官(2016~2017年度)。

[主な著作]
「価格と原価の議論における防衛調達価格算定方式の位置づけ」(2019) 『産業経理』第79巻第1号:pp.142-150
「日本の防衛調達における官民の原価情報の共有に関する研究」(2016)『メルコ管理会計研究』第9巻第1号:pp.57-68「わが国防衛調達におけるLCCを見据えた調達の現状と課題に関する一考察」(2013) 『一橋商学論叢』第8巻第1号:pp.16-25
「政府調達の原価管理論一防衛調達の事例を中心として」(2012) 一橋大学大学院博士論文
「政府調達における原価企画と部門横断型組織の適用可能性」(2011)『フィナンシャルレビュー』通巻第104号:pp.77-104(共著)