『消費税法の実務詳解』(『旬刊経理情報』2021年5月10日・20日合併号)

書評

「旬刊経理情報」2021年5月10日・20日合併号の書評欄(「inほんmation」・評者:金井恵美子氏)に『消費税法の実務詳解』(藤枝 純・遠藤 努〔著〕)が掲載されました。







本書は、2人の弁護士による共著である。先には国際課税の分野をテーマにした『移転価格税制の実務詳解』(2016年10月、2020年5月改訂)、『タックス・ヘイブン対策税制の実務詳解』(2017年12月、2020年12月改訂)、『租税条約の実務詳解』(2018年12月)、『デジタル課税と租税回避の実務詳解』(2019年12月)があり、本書は、そのシリーズの最新作として刊行された。シリーズが国内税務に進出したことを喜ぶ読者は多いだろう。

はしがきには、執筆の動機として、消費税がわが国の基幹税としての地位を確固たるものにしたにもかかわらず、理論レベルを落とさず実務にも役に立つ本が少ないと感じられること、消費税の課税処分取消訴訟を担当し参考となる本を探したものの適当なものがみつからなかったことなどが、語られている。それゆえ、過去において紛争が集中している項目や論点については重点的に解説する一方、解釈に疑義が生じる可能性が少ない規定については簡潔に留めるという、強弱をつけたスタイルとなっている。

本書の構成は、次のとおりである。第1章において、EU付加価値税の誕生と日本における消費税導入の経緯および改正の沿革を説明し、両者を比較して現代的VATに言及する。
第2章の国内取引に係る消費税法の解説では、まず不課税に焦点を当てて包括的課税除外を明らかにし、続いて納税義務者、課税資産の譲渡等、非課税の詳細、税額控除、中小事業者の特則、租税回避と展開する。消費税は、企業利益とは関係なく、費用収益の期間的対応という概念がない。そういった、所得税または法人税とのロジックの違い、改正の基礎となった会計検査院の指摘、租税回避への対応など、制度の成立ちも含め、現行法の理解を深める。
一般的な実務書では、内外判定は課税の対象を説明するなかに構成されるが、本書では、第3章の国際取引に配置され、リバースチャージ方式、輸出免税および輸入の消費税の解説の基礎となっている。
第4章は消費税の手続等、第5章は地方消費税である。
第6章では、消費税が財政再建に果たす役割を分析し、現行法の問題点の指摘から消費税の今後の方向性を示唆している。

本書を手に取って最初に感じるのは、判決文、裁決文、通達をはじめとする行政文書および研究書の引用に多くの紙面を割いていることである。ともすれば緩慢の印象を受けるそれは、本書では、資料の適格かつ効果的な整理と配置により、判断を導くロジックを読者のうちに組み立てることに成功している。税務争訟においては条文の基礎となる制度趣旨等に基づき主張を展開することが重要であることを知る弁護士が、戦いに必要な装備を自ら作ろうとする発意にふさわしく、公表された判決と重要な裁決をことごとく取り上げた結果である。
理論と実務の両面から、弁護士および税理士の欲求を満たす内容になっているといえるだろう。

金井 恵美子(税理士)