書評
「旬刊経理情報」2021年6月10日号の書評欄(「inほんmation」・評者:小林 正和氏)に『グループ通算制度の実務』(足立 好幸〔著〕)が掲載されました。
2020年3月27日に成立した改正法人税法により、従来の連結納税制度が見直されて、グループ通算制度に移行することとされ、2022年4月1日以後に開始する事業年度より、グループ通算制度が適用されることとなった。
本書では、グループ通算制度の詳細が解説されているため、現在の連結納税制度からグループ通算制度へ移行する準備を進めている企業や、新たにグループ通算制度を適用する企業にとって、非常に役に立つものである。
また、このような企業の税務顧問である税理士あるいは税理士法人が税務関連サービスを提供する場合や、公認会計士あるいは監査法人が会計監査を実施する場合においても有用である。さらに、これまで連結納税制度を採用していなかった企業等においても、グループ会社の税務の方針を決定するために参考になる。
近年、上場企業などが開示する決算書としては、連結ベースの情報である連結財務諸表が中心となっており、上場企業の経理担当者や監査法人・公認会計士事務所の担当者などは、連結財務諸表について習熟している。しかしながら、連結納税制度については、完全支配関係のグループ会社に限定されているなど、税法上の規定等はさまざまな面で異なっていることから、実務上の負担が大きく、本書のような解説本への期待が高まっているのである。
さらに、会計処理においては、税法上の規定等と連結会計基準等との差異が存在することにより税効果会計が適用されるため、企業会計基準委員会より実務対応報告公開草案61号「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い(案)」が公表されており、会計処理の検討が進められている。
本書の特徴としては、Q&A方式となっていることから、実務において問題が生じた場合、解説されている該当箇所をみつけることが容易であることが挙げられる。また、グループ通算制度の総論を知りたい場合には、第1章と第2章、各論をみていく場合は、第3章から第16章、実務ポイントについては第17章というように、関心のある論点に応じて、いくつかのQ&Aを一括して読むことも可能となっている。
特に、図解や計算例が随所に記載され、別表の記載例も紹介されており、地方税の解説もなされていることに加えて、第17章においては、グループ通算制度の有利・不利と実務対応について解説がなされていることから、法令等の要約だけではない、付加価値の大きい書籍である。
グループ通算制度においては、連結納税制度と異なり、それぞれの法人単体で申告・納付を行う方式となっていることや、修正申告・更正の請求においては他社へ影響を及ぼすことのないように遮断措置が導入されていること、開始・加入に伴う時価評価・繰越欠損金の持込制限の見直しなどがなされている。これらが実務へ及ぼす影響を把握・分析・対応していくためには、本書のQ&Aを参照しつつ作業を進めていくことが必須であろう。
小林 正和(税理士法人小林会計事務所 公認会計士・税理士)