書評
「旬刊経理情報」2021年8月10日号の書評欄(「inほんmation」・評者:佐藤 耕司氏)に『ボード・サクセッション ―持続性のある取締役会の提言』(山田 英司〔著〕)が掲載されました。
「サクセッション」という言葉には「継続」とか「継承」という意味がある。さらに、生物学においては「ある生物群集に別の生物群集が侵入してきて、入れ替わりながら、ほぼ安定した状態(極相)へ変化していくこと」を意味するそうだ。
著者は、サステナブルに二重の意味を込めている。1つは、モニタリングモデルにサステナビリティ要素を入れることの重要性、そしてもうひとつは、モニタリングモデルたる取締役会が監督機能を持続的に発揮できるかという観点からのサステナビリティの重要性である。
モニタリングモデルが浸透している米国、英国に比べ、いまだマネジメントモデルが一般的な日本。意思決定の場である取締役会は執行サイドのメンバーが中心で、社外取締役は外部の視点から執行サイドの意思決定状況を監督するという認識にとどまっているケースも多い。いつまでも取締役が執行サイドの最終キャリアのままでは、取締役会のモニタリングモデル化はおろか、マネジメントモデルを脱することすら困難だと思われる。少なくとも上場企業においてはこのようなキャリア観の変化が望まれるところだ。
少子高齢化等の構造的な問題により、プレゼンスを発揮できていない日本企業。今後は経営の多角化やグローバル展開が必須であり、マルチステークホルダーとの新たな関係構築に迫られるであろう。コロナ禍に代表されるパンデミックや、異常気象問題、そしてそのような環境下での適切な経営戦略の推進、SDGs・ESGへの配慮など、経営をめぐる課題は絶えない。その課題への対応に関する適宜適切な監督のためにも、「ボード・サクセッション」の定着とさらなる強化は焦眉の急といえよう。
また、本書を通じ、人材サービス業に携わる身として、「新たな人材市場の創出」についても考えさせられた。ニューノーマル時代への突入とともに、新しいビジネスチャンスが到来し始めたなか、前例に囚われないイノベーティブな発想でビジネスを推進できる人材、そして監督すべき項目の多様化、専門化に対応できる人材、このような人材のニーズは高まっていくであろう。
米国・英国ではすでに、取締役会の監督機能を補完、強化する位置づけから、「監査」、「指名」、「報酬」という3つの委員会が存在することが一般的だ。さらに近年においては、「戦略」、「財務」、「サステナビリティ」、「リスク」など、より専門的に議論を深めるべき領域においても追加の委員会が設置されている。
企業にとって、多様な専門性を有する人材を社外取締役として登用することは必要不可欠といえる。まさに「ある生物群集に別の生物群集が侵入してきて、入れ替わりながら、ほぼ安定した状態(極相)へ変化していくこと」を目指すということである。それは取りも直さず、監督機能の多様化に対応する新たな人材マーケットが目の前に現れたということだ。われわれもこのチャンスを活かしたいと考えている。
佐藤 耕司(㈱SMBCヒューマン・キャリア 代表取締役社長)