『「株式交付」活用の手引き』(『旬刊経理情報』2021年9月20日増大号)

書評

「旬刊経理情報」2021年9月20日増大号の書評欄(「inほんmation」・評者:牧口 晴一氏)に『「株式交付」活用の手引き』(金子 登志雄〔著〕)を掲載しました。







「株式交付」と聞いて、「中小企業は関係ないね」と思ったら改めなければならない。しかし、そう思うのもしかたのないほどに、従前の解説は上場会社を前提に語られてきていた。

現に私も「そりゃ~上場会社には最適だね」と思っていた。「子会社になる会社が非公開会社なら、株主は株式交付に応じれば親会社の上場株式を交付されるので、自由に売れるようになる」と思いもした。さらには、令和3年度税制改正で、「株式交付に応じた株主は譲渡所得税がかからない」と聞けば、「お~それは使い勝手がいい! さらにM&Aが進むぞ!」と期待が膨らんだ。

しかし、一方で「親会社の上場会社が...」の前提が固定観念で沁みついていた。ところが、この本の帯の「非公開会社にも役立つ活用方法の早わかり」とのコピーでその前提が誤解であることに気づかされた。

早速、筆者の提案する「仮想事例」を読むと、その誤解が氷解した。と同時に、「なるほど! これはまさに使える! 帯の文言どおりだ!」と爽やかな気持ちにすらなった。

「仮想事例」は7つ。どれもユニークであった。その1つ目はお定まりの「上場会社による株式交付」で、定番である活用方法を学ぶことができる。しかし、それだけにとどまっていない。買い取られるオーナー株主の経営上の思惑が見事に反映されていた。

特に3つ目の「内紛の解消と株式交付」には唸った! 事業承継に打ってつけの解決策だ。

あらためて思うに、株式交付とは、株式交付親会社が買い取る株式は、株式交付子会社の株主から買い取るのである。つまり、株式交付子会社は、取引にはまったく関与せず、自社の株主と株式交付親会社が、勝手に、いわば頭越しに行われるのである。劇的ですらあるため、組織再編の完成形ともいわれるが、そのことへの理解はいまだ少ない。つまりは、今学べば、差別化ができるのである。

しかも、株式交付親会社も株式交付子会社も非公開会社なのである。仮想事例からさらに発展できると私の空想は広がった! 紙幅の都合で載せられてはいないが、おそらく筆者には浮かんでいるだろう。たとえば、小さいほうの会社が株式交付親会社にもなれる。これは面白い使い方が連想されそうである。

4つ目の仮想事例からは「グループ再編」にも活用できることを示すものだった。それが4つ続く。グループ再編とくれば、複雑で長文...と思いきや見事にシンプルにまとめられている。しかも1つの事例を別の角度から捉え直して、多角的視点を提示してくれる。

これらの仮想事例がともに、図解を用いつつテンポよく解説されて理解がスムーズであった。さすが、『「会社法」法令集』(中央経済社刊)の重要条文ミニ解説を書かれた筆者だけのことはある。私はこのミニ解説にどれほど助けられたことか。この場を借りてお礼を述べるとともに、今回も見事にお世話になってしまい、早速顧客に提案ができた。

第2章以降の手続の記述もQ&A形式で具体的に使えたので、お買い得な1冊と推薦できる本である。

牧口 晴一(牧口会計事務所所長 税理士)