書評
「旬刊経理情報」2021年10月20日号の書評欄(「inほんmation」・評者:平 茂 氏)に『収益認識のポジション・ペーパー作成実務―開示、内部統制等への活用』(太陽有限責任監査法人〔編〕高田 康行〔著〕)を掲載しました。
2021年4月1日より、収益認識会計基準等が強制適用となった。2018年3月30日に公表された企業会計基準29号「収益認識に関する会計基準」および「適用指針」について、企業会計に携わる多くの実務家がこれまで繰り返し基準および指針の理解に努め、強制適用への対応を図ってこられたと思う。一方で、当該会計基準を最初から最後まで順番に繰り返し読み込んでも、IFRS15号「顧客との契約から生じる収益」がベースとなっている同基準は、英語直訳的な部分もあり、基準の解釈に苦労された方も多かったのではないかと拝察する。
本書は3つのPART構成となっており、PART1において収益認識会計基準等の概要について、会計基準と適用指針の構成および全体像の解説が行われており、「結論の背景」も踏まえた各項目の有機的なつながり等の理解が進むように構成されている。本書を通読することにより、会計基準の意図するところを効率よく理解することができる。
収益認識会計基準等では、従来の会計基準とは違い、「開示目的」を示したうえで個別の開示項目が規定されており、企業の実態に応じて、企業自身が開示目的に照らして注記事項の内容を決定しなければならないため、ステレオタイプ的な開示とはなりにくい。このことは、2022年3月期第1四半期に係る四半期報告書に記載された上場会社の「収益の分解情報」の注記をみてもわかるように、各社が実態に応じてさまざまな視点からの分解情報を記載している。
四半期報告書においては、記載が省略可能である「収益を理解するための基礎となる情報」および「当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報」も期末の有価証券報告書では「重要な会計方針」、「収益認識に関する注記」として記載する必要があり、これまで検討を重ねてきた内容を期末の開示に向け、今後ブラッシュアップしていくことになる。本書においては、開示実務を理解するためのツールとして「開示手続書」、「レベニュー・ストリーム一覧」および「開示ポジション・ペーパー」という3つのツールに基づいた検討事項・手順等の解説がPART2でなされており、今後、期末までに記載内容の充実を図るうえで非常に有用となるだろう。
収益認識会計基準等への対応において、多くの企業が指針の設例等によりこれまで幾度となく検討を重ねてきたと思うが、PART3においては、これらの設例について、ポジション・ペーパー記載例を用いて詳細に解説を行っており、内部統制も含めた検討すべき事項等が非常に理解しやすいものとなっている。
筆者は会計基準について、会計処理だけでなく内部統制および開示も重要視している。また、会計基準等の制度対応について、適用時はもとより、適用後においても維持・向上への姿勢が重要との見解を示している。収益認識会計基準等への初年度の対応後も、2年目、3年目と形骸化させることなく、制度に対応していくための指南書として傍らに置いておきたい1冊である。
平 茂(川田テクノロジーズ㈱ 経理担当部長)