書評
『旬刊経理情報』2021年12月1日号の書評欄(「inほんmation」・評者:井上 直政 氏)に『実践経営会計』(吉田 栄介〔著〕)を掲載しました。
「管理会計(経営管理)は利益デザインの要。利益は組織のマネジメント力で作りこむ。」
管理会計は企業業績管理の根幹に関わるよりどころだが、組織に浸透して機能するまでに時間がかかり、うまく使わないと形骸化してしまう。本書では、管理会計がうまく機能する組織設計・手法・人財育成を説明するうえで、事例研究が多数紹介されている。現場管理まで落とし込まれた各社独自の管理会計のしくみとその要点について簡潔にまとめられている。管理会計手法については各社閉鎖的であり、実務担当者としては、他社の管理会計の取組み内容を知る機会がない。本書はそのような悩みを解決する一助となる。
『実践経営会計塾』第1回(2015年4月)で吉田教授(著者)の講演を拝聴した。本書は、新型コロナウイルス感染症の蔓延により中断されるまでの5年間の講演内容をまとめたものである。あらためて本書を読み返してみると、学問的な観点と実務的な観点の両面からバランスよく記載されている。
コストマネジメントでは、原価企画活動、原価維持活動、原価改善活動を自社のビジネスに合わせて、どのようなしくみや組織で運営していくかが重要になる。原価改善のネタは現場にあり、原価改善活動は現場でしか行えない。工場経理・原価部門は、現場のアイデアを吸い上げ、部門横断的に共有するためのしくみを作り、維持・発展させることが仕事になるが、社内の管理会計実務担当者としては、自社の管理会計課題解決のために、他社がどのような手法を導入し、使いこなしているか日々気になるところである。
本書では、数多くの高収益企業を取り上げ、管理会計の優れた実践のためには、手法・技法だけでなく、ビジネス全体を理解し、管理会計のための組織設計と実施プロセスのマネジメントを円滑に実行し、人材を育成することの重要性を説明している。
また、原価計算や経理テキストで触れられることが少ない原価企画活動(源流管理)の重要性について多くのページを割いて説明しており、筆者は、コストマネジメント上で原価企画活動を重要視していることがうかがえる。開発設計段階からの原価の作り込みの重要性が述べられており、標準原価手法による原価維持活動を長年担当してきた者としては、もっと広い視点での原価低減活動の必要性を認識させられる。冒頭に触れたセミナーのなかで、「コスト変動リスク管理」の事例で取り上げられたご担当者の講演を拝聴したが、本書2ページでは紹介しきれない内容である。
また、キャッシュ・フロー経営、Non-GAAP指標やバランスト・スコアカードの事例も紹介されている。最近の流れとして、活動基準予算(Activity-Based Management)、グローバル管理会計やIFRS適用による変化点を取り上げるなど、工場原価管理にとどまらない、幅広い内容となっている。
個社の管理会計実務者では知り得ない、研究論文と実務者との対話のなかで得られた知見が凝縮された一冊である。
井上 直政(イーグル工業㈱ 事業統括部 副部長)