『CFOのためのサブスクリプション・ビジネスの実務』(『旬刊経理情報』2022年1月1日号)

書評

CFOのためのサブスクリプション・ビジネスの実務旬刊経理情報』2022年1月1日号の書評欄(「inほんmation」・評者:宮本 力 氏)に『CFOのためのサブスクリプション・ビジネスの実務』(吉村 壮司・畑中 孝介〔著〕)を掲載しました。







〝顧客中心〟がなぜ企業価値を高めるのか。当書は、その本質理解から実現への道筋を徹底解説している。

具体的にいうと、当書はサブスクリプション・ビジネスが、なぜ〝顧客中心〟を実現することに密接に関係しているのか? また、その実現がどう継続的な収益を生み出していくのか? そして、最終的に、なぜ企業価値を高めることに結び付くのか? その本質的な考え方の理解から、実現までの道筋を丁寧に解説してくれている良書となっている。

サブスクリプション・ビジネスには、深い谷を越えていく必要がある。筆者は、それを〝サブスクリプション・バレー〟と呼び、その谷を越えられるかは、これまでこびりついた過去の製品中心の思想を脱却し、いかに〝顧客中心〟へと心と頭を切り替えられるかだという。

とくにサブスクリプション・ビジネスにおいて重要となるプライシングモデルの解説では、まさに〝顧客中心〟を実現する戦略的判断が必要になり、さまざまなオプション案を吟味して柔軟に設定することの重要性がわかりやすく理解できる。加えて財務オペレーション、管理会計、事業開始後の会計処理やグループ会社を活用した税務スキームまで、財務実務に該当する部分も、わかりやすい図解と、豊富な事例とともに紹介されており、これから自社の事業構造転換、または新規事業に踏み出そうとしている方々への指針と助けになるはずだ。

近年、いわゆる〝サブスク〟ビジネスへの認識は、日本でもかなり定着しつつある。一方で、目立つのはAmazonPrimeやNetflix等の大手外資のBtoCのデジタルコンテンツサービス、BtoBにおいては企業向けクラウドツールを提供するSaaS企業などを中心としたビジネスモデルだと思われがちだが、この本が特徴的だったのは「今からでも」、「どんな企業にも」というメッセージ性を加味している点だ。その理由は、この2名の著者が国内企業の実情に合わせたコンサル経験を豊富に持ち合わせていることが背景にあるからだろう。

とりわけ面白かったのが、〝商店街の老舗のフルーツ店〟の事例や、〝和酒居酒屋〟の事例が紹介されている点だ。サブスクリプション・ビジネスは、どんな事業であっても、〝顧客中心〟への発想転換を持つことによって、顧客と自社の中長期的な関係を生み出し、多様な収益パターンを創造するチャンスに溢れていることがよく理解できる。

最後に、顧客との中長期的な関係づくりのビジネススキームの確立は、自社の将来キャッシュ・フローを安定的に生み出し、企業の現在価値(時価総額)を高めてくれるというファイナンス的視点の重要性も重要な主題だと感じた。国内企業の多くが陥っている短期的なPL視点の罠から、中長期的なファイナンス視点への転換が必要であり、サブスクリプション・ビジネスを通して財務的な概念変化も重要であることを気づかせてくれる。

全体を通して読みやすく、CFOや財務関係者だけでなくともおススメできる1冊となっている。

宮本 力(㈱イルグルム 執行役員COO)