『消費税 仕入税額控除の実務』(『旬刊経理情報』2022年1月10日・20日号)

書評

消費税 仕入税額控除の実務旬刊経理情報』2022年1月10日・20日号の書評欄(「inほんmation」・評者:周藤 賢一 氏)に『消費税 仕入税額控除の実務』(デロイト トーマツ税理士法人、DT弁護士法人〔編〕)を掲載しました。







消費税は、最終的な消費行為よりも前の段階で物品やサービスに対する課税が行われ、税負担が物品やサービスのコストに含められて最終的に消費者に転嫁することが予定されている間接税である。消費者に対する税負担の適正な転嫁を実現するためには、生産、流通の各段階での税負担の累積を防止する必要があるが、税負担の累積を防止するためのしくみが仕入税額控除である。

すなわち、仕入税額控除は消費税の核心というべき重要なしくみであるが、本書では、仕入税額控除に関する諸問題について、間接税や税務調査・係争対応等に関し豊富な知見・経験を有する国税OB・税理士・弁護士が詳解している。

本書は次の5章から構成されている。第1章「仕入税額控除と契約書の定め」、第2章「仕入税額控除の申告実務」、第3章「仕入税額控除の税務調査対策」、第4章「仕入税額控除の裁判例・裁決事例」、第5章「インボイス制度」である。

第1章では、取引開始の段階にスポットを当て、課税仕入れの相手方との間に思わぬ紛争を招かないようにすることを主眼とした、税務リスクの少ない契約の締結または契約書の作成にあたっての留意点を解説している。

第2章では、申告・納税の段階にスポットを当て、実務担当者が消費税の納付税額を正しく計算できるよう、仕入税額控除に係る税務上の取扱いを詳細に解説している。

第3章では、税務調査の段階にスポットを当て、2011年度税制改正における税務調査手続の法制化の概要と税務調査手続の法制化後の消費税に係る税務調査の実態や留意点を解説するとともに、仕入税額控除に関する約30件の否認事例を題材とし、否認の内容や否認の根拠等を解説している。

第4章では、税務訴訟の段階にスポットを当て、仕入税額控除が争点となった9つの事例を挙げて、裁判所や国税不服審判所が仕入税額控除に関する消費税法の規定や消費税法基本通達の定めの解釈について、どのような判断を示したかを解説している。

第5章では、インボイス制度について、導入の背景、制度の内容、経過措置等について解説している。

以上のように、本書の特徴は、申告実務の解説にとどまらず、企業活動の各段階で起こり得る仕入税額控除を起因とする税務リスクへの対策を詳解している点にある。近年、税務に関する法令・諸規則を遵守し、適正な申告・納税を行うことを意味する税務コンプライアンスの質の向上とともに、税務リスクの最小化による企業価値の向上を経営上の重要課題に掲げる企業が増加している。税務コンプライアンスの質の向上や税務リスクの最小化による企業価値の向上という経営課題の実現には、経理部門が中心的な役割を果たすことが求められる。本書は、経理部門の実務担当者が、消費税に関する税務コンプライアンスの質の向上や仕入税額控除を起因とする税務リスクの最小化による企業価値の向上という経営課題に取り組むうえで、有用な1冊といえるだろう。

周藤 賢一(日生ホールディングス㈱ 経理部長 公認会計士)

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