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今、日本には消費税や所得税をはじめとする多くの「税」があります。
そしてそのすべては、法律によって定められています。
「税」が法律に定められているということは、今では当たり前のことのようですが、日本の「税」の仕組みは、長い歴史のなかで形づくられてきました。
「税」の歴史を辿ると、それぞれの時代に地域や国を担っていた人々が、どのような国づくりをしたかったのか、その苦労や工夫、そして未来への希望を垣間見ることができます。
マンガ「税の歴史」では、千年税務会計事務所に勤めるメンバーが、時代を動かした歴史上の人物に出会い、「税」について学んでいきます。
第5話「聖武天皇」
701年に発布された大宝律令は、田の面積に応じて課せられる「租」や、年齢などを基準にした「調・庸」の制度によって、人々から広く均等な税の徴収を行うことを目指しました。
しかし、農民にとって税の負担はきわめて重く、成年男性(正丁)に課せられる兵役なども重なり、奈良時代に入ると、農民の間では貧富の差が生まれるようになったとされています。なかには田を捨てて浮浪するものなどもありました。加えて、人口が増加したことによる口分田の不足も起こりました。これらの事態が税収に影響を及ぼすようになり、開墾を奨励する何らかの対策が必要となっていました。
そこで、723年には、新しく用水路などのかんがい設備を設けて開墾した場合に、三世(子・孫・ひ孫)にわたりその私有を認める「三世一身の法」が制定されました。しかし、ひ孫の代になり、墾田の所有期限が迫ると、田地が荒れてしまうことが多く見られました。そのため、743年には、墾田永年私財法が出されました。
墾田永年私財法は、自ら開墾した田の私有を永代にわたり認めるものですが、墾田の面積は身分によって制限が設けられていました。さらに開墾には国司への申請が必要で、私有においても中央政府の認可が必要であったとされています。
これは、開墾という行為を政府の管理下におき、政府による土地の支配を強めるという重要な意味があったと考えられています。
ところで、奈良時代は平城京を都とした時代であることが有名ですが、墾田永年私財法が出された743年における都は、平城京ではありませんでした。
720年に藤原不比等が亡くなったあと、藤原不比等の四子(いわゆる「藤原四兄弟」)が政治の中心を担っていましたが、当時流行した天然痘を患い相次いで亡くなりました。
その藤原四兄弟のうちの一人、宇合(うまかい)の子、広嗣(ひろつぐ)が起こした「藤原広嗣の乱」をきっかけに、聖武天皇は平城京から離れ、740年から数年間の間に恭仁京(くにきょう)(京都府木津川市)、難波京(なにわきょう・なにわのみやこ)(大阪市)、紫香楽宮(しがらきのみや)(滋賀県甲賀市)などに都を転々と移したと伝えられています。
聖武天皇は、当時の飢饉や疫病の流行、政治情勢などによる社会的不安に対して、厚く信仰していた仏教の思想による安定を願い、743年に紫香楽宮における「大仏造立の詔」を発布したとされています。
墾田永年私財法は、混沌とした当時の社会情勢を立て直す流れの中で発布された法であり、田地の増大によって国土の生産力を回復させるという積極的な役割をもっていたものと考えられています。
墾田永年私財法によって公地公民制からの変革の時空に立ち会った「チームむぎ」。
次回はどんな歴史上のできごとと人物に会うことができるのでしょうか?
参考文献
日本史広辞典編集委員会編『山川日本史小辞典改訂新版』山川出版社、2016年
石ノ森章太郎『新装版マンガ日本の歴史』中央公論新社、2020年
山本博文監修『角川まんが学習シリーズ日本の歴史 飛鳥と仏教』KADOKAWA、2015年
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平凡社編『新版日本史モノ事典』平凡社、2017年
井筒雅風『日本服飾史 男性編』光村推古書院、2015年
高森明勅監修『歴代天皇事典』PHP研究所、2016年
下向井龍彦監修『歴史人物できごと新辞典』増進堂・受験研究社、2015年
佐藤信・五味文彦・高埜利彦・鳥海靖編『詳説日本史研究』山川出版社、2017年
笹山晴生・佐藤信・五味文彦・高埜利彦・老川慶喜・加藤陽子・坂上康俊・桜井英治・白石太一郎・鈴木淳・吉田伸之・山川出版社著『詳説日本史改訂版日本史B』山川出版社、2017年
伊藤俊一『荘園―墾田永年私財法から応仁の乱まで』中央公論新社、2021年
歴史学研究会編『日本史年表 第5版』歴史学研究会、2018年
坪井清足、奈良国立文化財研究所『平城京再現』新潮社、1988年
木津川市ホームページhttps://www.city.kizugawa.lg.jp/index.cfm/8,28716,36,420,html(2022年1月確認)
華厳宗大本山東大寺ホームページhttp://www.todaiji.or.jp/contents/history/(2022年1月確認)
甲賀市教育委員会ホームページhttps://www.ac-koka.jp/shigarakinomiya/rekisi.html(2022年1月確認)
茂垣 志乙里(税理士)
2012年税理士登録。
イラスト経歴
- 連載:「税理士は社交力が命 4コマDEマナー」『税務弘報』2020年1月号~
- 連載:「税務は洞察力が命 イラストDE分析」『税務弘報』2017年7月号~2018年6月号
- 連載:「税務は洞察力が命 イラストDE分析Ⅱ」『税務弘報』2018年10月号~2019年9月号
- 挿絵:加藤剛毅著『トラブル事案にまなぶ「泥沼」相続争い解決・予防の手引き』中央経済社、2020年
- 共著・挿絵:『今のうちから考えよう相続対策のはじめ方』日本加除出版、2014年
- 共著・挿絵:『年金世代から考える税金とのつきあい方と確定申告』日本加除出版、2015年
- 挿絵:『成功する開業医―院長夫人、あなたが期待されていること』中央経済社、2021年
- 挿絵:『大人のお金の遣い方―税理士に聴いてきました』中央経済社、2021年
- 公式キャラクターデザイン:特定非営利活動法人NPO支援の税理士ネットワーク「のんちゃん」「ぽらちゃん」
- 公式キャラクターデザイン:一般社団法人コミュニティ・カウンセラー・ネットワーク「ヤダもん」