書評
『旬刊経理情報』2022年4月1日号の書評欄(「inほんmation」・評者:増山 啓 氏)に『プロが教えるキャプティブ自家保険の考え方と活用』(マーシュ ブローカー ジャパン株式会社〔著〕)を掲載しました。
これまで日本においてキャプティブに関する情報や書籍といえば、余剰資金のファンディングやタックスマネジメントとしての手法に着目されたものが多かった。実践的なリスクマネジメントツールとしてのキャプティブを体系的に整理し、その効果を理論的に解説する本書のような書籍は、保険リスクマネジメントを高度化し、国際競争力の向上を目指す日本企業、特にその保険実務を担当する部門・担当者には大変参考となるものである。
本書のなかで著者が強調する、キャプティブはあくまでグループの自家保険を実現する手段であり、通常の事業子会社と同列で損益を論じてはならない、というメッセージは極めて明快である。また、コストセンターとしてのキャプティブの設立目的を意思決定者ならびに実務担当者に正しく理解させることがいかに重要であるか、多くの日本企業のキャプティブ設立成功例、失敗例をみてきた著者ならではの思いを感じるところである。
保険リスクマネジメントは企業のリスクマネジメント活動の一面に過ぎないが、これまで多くの日本企業は欧米企業には通常在籍している保険リスクマネージャーを配置しておらず、キャプティブを含む保険リスクマネジメントの高度化が自律的に行われてきたとは言い難い。しかしながら、筆者の所属する三菱重工業㈱を含め、多くの日本企業が海外グローバル企業との競争やM&Aを経験するなかで、単なるコストダウンのみならず、ビジネスプロセスの改善や企業価値向上に資する取組みとしての保険リスクマネジメントの高度化、保険リスクマネージャーの採用が増加しており、まさに本書の出版は時機を得たものといえる。
なお、本書を手に取られる企業の保険リスクマネジメント部門の方には、合わせてPARIMA(Pan-Asian Risk and Insurance Management Association)への加入もお薦めしたい(*)。アジア太平洋州におけるリスクマネージャーの組織であり、保険会社、ブローカー等がスポンサーを務める組織のため、本邦でも2022年1月現在で400名超の会員が所属しており、保険リスクマネジメント担当の横連携による情報交換、最新の取組みに触れることができる。
気候変動に伴う自然災害の激甚化、ソーシャルインフレーションに伴う損害額の上昇等、昨今の保険マーケットのハード化は一時的なものにとどまらない可能性が指摘されており、特にExposureが大きくリスクボラティリティの高い企業については、中長期的にリスクの自家保有を余儀なくされるケースが増えると予測される。キャプティブは自家保有の一手段であるが、元受保険会社のサービスや企業グループ全体として保険プログラムのメリットを享受しつつ自家保有を実現する手段として引き続き、有力な選択肢となり得るものである。多くの企業に本書が広まり、本邦企業全体の保険リスクマネジメントの高度化が進むことを期待したい。
(*)https://www.parima.org/join-us-jp/
増山 啓(三菱重工業㈱ 事業リスク総括部リスク管理室 リスクマネージャー)
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