『収益認識のポジション・ペーパー作成実務―開示、内部統制等への活用』(『企業会計』2021年12月号)

書評

収益認識のポジション・ペーパー作成実務―開示、内部統制等への活用
『企業会計』2021年12月号の書評欄(評者:木村研一 氏)に『収益認識のポジション・ペーパー作成実務―開示、内部統制等への活用 』(太陽有限責任監査法人〔編〕高田 康行〔著〕)を掲載しました。







 収益認識基準等の解説書はすでに数多く出版されているが,本書の際立った特長は,PART1からPART3の3つの章を経て,基準の理解から開示と各種論点,これらが横断的に表現されかつ内部統制にまで言及したポジション・ペーパーの作成例を通じて,幾層にも説明が繰り返され,深い理解が得られる点にある。また,豊富な想定例と記載例により実務にどう当てはめるべきか具体的にイメージが得られ,実務にすぐに役に立つように工夫されている。導入の経緯や,IFRS との差,基準解説にフォーカスした他書と異なり,日本の実務への定着に配慮している点で大いに参考になる。本誌での連載当時から読者の1人として,図表の豊富さで,基準理解と実践のための大きな助けになっていた。

 膨大で複雑な基準を図表化する労力はたいへんなものと想像でき,著者の基準に対する深い理解と,普段の真摯な業務姿勢をうかがい知ることができる。

 PART1においては,収益認識に関する会計基準等の概要をシンプルに記載している。収益認識基準等(会計基準と適用指針)の会計処理の定めを3階層に分け,1層は「基本となる原則」,2層は「5つのステップ」,3層は「5つのステップに対応する定め」と明瞭に整理され,全体像を代替的な取扱いとあわせて1つの表で表現している。開示の定めについても,上記5ステップとの関係を表にまとめ,大部でありながら枠組みが明確なこの会計基準等の特徴を生かし,読者を迷わせないように工夫している。

 次の PART2では,開示実務を扱っている。注記実務の便宜のために,本書では次の3つのツールを提示している。「開示手続書」「レベニュー・ストリーム一覧」「開示ポジション・ペーパー」である。開示手続書において,著者得意の表形式で規定の整理を行うとともに,レベニュー・ストリーム一覧では同じく表形式で各種取引タイプごとに5つのステップの論点を整理している。そして,開示ポジション・ペーパーにおいて,レベニュー・ストリーム一覧,「開示項目(表示と注記)」「開示方法(結論と判断根拠)」といった様式で必要な記載事項を定義している(81,82頁)。

 圧巻は PART3のポジション・ペーパーの作成・活用実務である。レベニュー・ストリーム一覧をもとに会計処理・内部統制について記述するものを,この PART でのポジション・ペーパーとしている。具体的な記載項目として「リスクの識別と評価」「高リスクの根拠」「内部統制の構築とキーコントロールの選定」を含めている。ここが本書の最大の特長であり,適切な適用までを対象にして,リスクの識別と内部統制の構築に関する情報も含めるべきであるという著者の会計監査の経験と内部統制に関する深い問題意識が表れている。記載例14個は読者の活用の便宜を考慮して,個別論点を詳細に説明した具体的な想定例を記載している。

 収益認識基準等は,企業活動の目標設定や評価に使われることも多く,日々の膨大な企業取引の記録に影響を及ぼす重要な基準である。また,その取引類型も多く,情報システム,契約実務,価格決定,税,請求実務,債権管理などの活動において幅広い影響をもたらす重要な基準である。また IFRS との整合性などの考慮もあり,その分,基準等自体も膨大かつ複雑にならざるを得なくなっている。それをいくつかの表にまとめ,数々の論点をわかりやすく図表化し,適度な説明を加えて,多くの取引形態を,会計処理にとどまらず開示や内部統制にまで解を与えていて,実務に非常に有益な好書である。

経理担当者,会計監査人はもちろん,ガバナンスを担当する役員,内部監査人,財務諸表利用者,事業計画立案者など,幅広い方々にぜひご一読いただき,ご活用をおすすめしたい。

[評者]木村研一 デロイト トーマツ合同会社 執行役・公認会計士

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