書評
『旬刊経理情報』2022年4月20日号の書評欄(「inほんmation」・評者:早川 将和 氏)に『頻出25パターンで英文契約書の修正スキルが身につく』(本郷 貴裕〔著〕)を掲載しました。
従来、英文契約は法務のなかでも特殊な分野であると認識されてきた。しかしながら、近年はどのような業種の企業でも、海外との取引をまったく行わないことは多くなく、それに伴い、英文契約も少しずつ増えてきている。今後も英文契約は、増えることはあっても減ることはないように思われる。
そのようななかで、これから英文契約を学ぼうとする法務パーソンにとって、本書は第一歩として最適であるといえる。
本書の特徴は大きく4つある。
1つ目は、「修正」に特化していることである。修正に特化することで、頻出表現を網羅的かつコンパクトにまとめている。具体的には、権利・義務を追記する方法、義務の制限・緩和の方法、不明確な条項を明確にする方法などが、実際によくある文例をもとに、解説されている。「今、目の前にある契約書を修正したい」という場合には、難解な英文契約の書籍より、よほど実践的で参考になる内容である。
2つ目は、契約特有の文言や近年の変化・動向にも触れられていることである。英文は、読むより書くほうが難しい。機械翻訳やAIによるディープラーニングを活用した翻訳サービスの進歩により、英文を読むことは以前と比較して格段に容易になった。一方で、そのようなサービスを利用しても、自分の書いた英文がネイティブにどのように伝わるかは自信が持てないことが多い。また、本書にも出てくるように、英文でも契約には特有の表現が用いられることがままある。本書冒頭でも登場するmustではなくshall、canではなくmayなどは、半分は英語のニュアンスの問題ともいえるが、慣れない者としてはなるほどという部分である。
3つ目は、頻出vocabularyが例文とともに豊富に掲載されていることである。本書では、各所に例文とvocabularyがまとめられている。例文等をみて思うのは、英文契約を修正する局面で、実はさほど英語力は必要ないということである。例文とともに掲載されるvocabularyは英文契約に頻出の単語であり、表現であるが、本書の全部をピックアップしても決して膨大な量ではない。むしろ、本書を読んだことで、平易な表現こそがその条文の意味を明確にすることにつながることをあらためて感じた。
4つ目は、英米法の違いについて述べられていることである。海外との契約において、適用法の違いについて不安を感じることは少なくない。本書では、責任に関する考え方や懲罰的賠償など、日本法と英米法の違いにも触れられている。
契約自由の原則は世界共通であり、英文に限らず日本語でも、契約業務の大半は(特に一から起案しない修正の場合には)、言葉の選択によりそれぞれの権利と義務を明確化していく作業であるともいえる。その意味で、本書の特徴、とりわけ英文契約特有の表現や権利義務を表すのに用いられるvocabularyは非常に重要な知識であり、英文契約学習の第一歩としてお勧めしたい。
早川 将和(司法書士 日本組織内司法書士協会 会長)
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