Webマガジン
今、日本には消費税や所得税をはじめとする多くの「税」があります。
そしてそのすべては、法律によって定められています。
「税」が法律に定められているということは、今では当たり前のことのようですが、日本の「税」の仕組みは、長い歴史のなかで形づくられてきました。
「税」の歴史を辿ると、それぞれの時代に地域や国を担っていた人々が、どのような国づくりをしたかったのか、その苦労や工夫、そして未来への希望を垣間見ることができます。
マンガ「税の歴史」では、千年税務会計事務所に勤めるメンバーが、時代を動かした歴史上の人物に出会い、「税」について学んでいきます。
第7話「藤原彰子」
第6話では、国司の権限を拡大したことにより、巨利を得るために暴政を行ったとして郡司などから訴えを起こされた「藤原元命」について描きましたが、当時同様の訴えが各地で起こされていたと考えられています。
各地で勢力を強めた有力農民たちは、このような国司の悪政に反発し、対立していくことになります。
そして、有力農民たち(大名田堵(だいみょうたと))は、国司からの圧迫から逃れるため、土地を中央の権力者や有力寺社に寄進し、荘園の保護を求めるようになっていきました。このような荘園は「寄進地系荘園」と呼ばれています。
「寄進地系荘園」では、荘園の領主(持ち主)は寺社やその土地の権力者となりますが、荘園の管理は変わらず有力農民に依頼し、収穫した一部を領主に支払うことで、働かずに使用料を得ることができる領主と、国司の圧迫から保護してもらえるという有力農民とが、持ちつ持たれつの関係を築いていたとされています。
もともと、税の一部又は全部を免除される「不輸(ふゆ)の権」は、朝廷により保護される大寺院に与えられるのが主でしたが、藤原家をはじめとする貴族の台頭によって不輸の範囲は拡大していきました。
そして寄進が盛んになると、国司が税の徴収や国内の耕地を調査するために派遣した検田使などの役人が立ち入るのを認めない「不入(ふにゅう)の権」を得る荘園も多くなりました。
やがて有力農民(大名田堵)たちは、開発を進めて開発領主と呼ばれ、一定の地域を支配するまでに成長していきました。
寄進を受けた荘園の領主は「領家」と呼ばれ、この「領家」の上位に置かれた上級の領主は「本家」と呼ばれました。このように段階を経て重ねて寄進されたのは、領家となった領主が有力者の保護により政治的な地位を高めるためや、荘園の権利を拡大するためであったとされています。
一方、この「寄進地系荘園」による寄進を多く受け、栄華を極めたとされるのが藤原家です。特に、藤原道長は、3人の娘を天皇家に嫁がせ、自ら天皇の外戚となることで、天皇家と強い繋がりを持ち、実質的な政治の実権を握り、摂関政治の全盛期を担ったとされています。
その3人の娘の1人、彰子は、11歳のときに一条天皇の元へ嫁ぎました。一条天皇にはすでに中宮として定子が入内し、敦康親王を出産していましたが(定子は皇子出産後崩御しています)、彰子が20歳の時に出産した敦成親王が後一条天皇として即位することになりました。この背景には、藤原家における道長の権力争いに有利に働いたいくつもの偶然が存在したと考えられています。
当時の中宮には教養が求められたことから、彰子には、源氏物語を書いたことで知られる紫式部が仕えることになりました。
藤原家の権力争いの中で翻弄された中宮彰子は、道長の華々しい活躍を、冷静に見つめていたのかもしれません。
税の形が変化し、税の役割を改めて考えさせられることとなった「チームむぎ」。
次回はどんな歴史上のできごとと人物に出会うことができるのでしょうか?
参考文献
日本史広辞典編集委員会編『山川日本史小辞典改訂新版』山川出版社、2016年
石ノ森章太郎『新装版マンガ日本の歴史』中央公論新社、2020年
山本博文監修『角川まんが学習シリーズ日本の歴史 3 雅なる平安貴族 平安時代前期』KADOKAWA、2015年
北條恒一『日本古代税制史の研究』白鳳社、1986年
平凡社編『新版日本史モノ事典』平凡社、2017年
井筒雅風『日本服飾史 男性編』光村推古書院、2015年
井筒雅風『日本服飾史 女性編』光村推古書院、2015年
下向井龍彦監修『歴史人物できごと新辞典』増進堂・受験研究社、2015年
佐藤信・五味文彦・高埜利彦・鳥海靖編『詳説日本史研究』山川出版社、2017年
笹山晴生・佐藤信・五味文彦・高埜利彦・老川慶喜・加藤陽子・坂上康俊・桜井英治・白石太一郎・鈴木淳・吉田伸之・山川出版社著『詳説日本史改訂版日本史B』山川出版社、2017年
笹山晴生・五味文彦・吉田伸之・鳥海靖『詳説日本史史料集』山川出版社、2007年
伊藤俊一『荘園―墾田永年私財法から応仁の乱まで』中央公論新社、2021年
永原慶二『荘園』吉川弘文館、1998年
高森明勅『歴代天皇事典』PHP文庫、2006年
紫式部・山本淳子『紫式部日記現代語訳付き』KADOKAWA、2010年
加来耕三企画・構成・監修『コミック版日本の歴史44平安人物伝藤原道長』ポプラ社、2015年
瀧浪貞子監修『調べ学習日本の歴史 12 貴族の研究』ポプラ社、2001年
鎌田和宏監修『教科書に出てくる歴史人物・文化遺産3奈良・平安時代』学研プラス、2012年
桐谷正信監修『図解楽しく調べる日本の歴史 2 貴族の世の中―飛鳥・奈良・平安時代』日本標準、2010年
茂垣 志乙里(税理士)
2012年税理士登録。
イラスト経歴
- 連載:「税理士は社交力が命 4コマDEマナー」『税務弘報』中央経済社、2020年1月号~
- 連載:「DANDANわかる!非営利法人のAtoZ」『公益一般法人』全国公益法人協会、2022年5月1日号〜
- 連載:「税務は洞察力が命 イラストDE分析」『税務弘報』中央経済社、2017年7月号~2018年6月号
- 連載:「税務は洞察力が命 イラストDE分析Ⅱ」『税務弘報』中央経済社、2018年10月号~2019年9月号
- 挿絵:加藤剛毅著『トラブル事案にまなぶ「泥沼」相続争い解決・予防の手引き』中央経済社、2020年
- 共著・挿絵:『今のうちから考えよう相続対策のはじめ方』日本加除出版、2014年
- 共著・挿絵:『年金世代から考える税金とのつきあい方と確定申告』日本加除出版、2015年
- 挿絵:『成功する開業医―院長夫人、あなたが期待されていること』中央経済社、2021年
- 挿絵:『大人のお金の遣い方―税理士に聴いてきました』中央経済社、2021年
- 公式キャラクターデザイン:特定非営利活動法人NPO支援の税理士ネットワーク「のんちゃん」「ぽらちゃん」
- 公式キャラクターデザイン:一般社団法人コミュニティ・カウンセラー・ネットワーク「ヤダもん」