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今、日本には消費税や所得税をはじめとする多くの「税」があります。
そしてそのすべては、法律によって定められています。
「税」が法律に定められているということは、今では当たり前のことのようですが、日本の「税」の仕組みは、長い歴史のなかで形づくられてきました。
「税」の歴史を辿ると、それぞれの時代に地域や国を担っていた人々が、どのような国づくりをしたかったのか、その苦労や工夫、そして未来への希望を垣間見ることができます。
マンガ「税の歴史」では、千年税務会計事務所に勤めるメンバーが、時代を動かした歴史上の人物に出会い、「税」について学んでいきます。
第8話「源頼朝」
第7話では、国司からの圧迫から逃れるため、土地を中央の権力者や有力寺社に「寄進」し、「不輸・不入の権」を得て、自らの土地を守ろうとする有力農民たちの苦労と、「寄進」によって富を得た藤原家の権力争いに翻弄された中宮彰子を描きました。
一方で、律令制の衰退により社会不安が増したことなどにより、自分たちの土地を守る闘争に備える必要が生じ、有力農民などが武装するようになりました。これが「武士」の始まりであるといわれています。
中でも強い力を持っていた平清盛率いる平氏たちは、朝廷と結んで政治を行うまでになりましたが、武士の地位が改善されることはなく、各地で武士の不満が募っていました。
その後、源平合戦を経て源氏が平氏を滅ぼすことになりますが、その戦いのなかで、頼朝との主従関係を結ぶ武士は「御家人(ごけにん)」と呼ばれ、御家人との統率を図るため、「御恩と奉公」と呼ばれる封建制度の仕組みが用いられました。
「御恩」とは、本領安堵(ほんりょうあんど)と新恩給与(しんおんきゅうよ)などをいいます。
- 本領安堵:御家人のもつ先祖から受け継いだ土地を支配する権利を認めて「地頭(じとう)」という職を与えること
- 新恩給与:きわだった功績に対して新たな所領を給付すること
「奉公」とは、戦のときに軍として戦うことをはじめとして、朝廷や鎌倉の警備などの軍事的負担と、関東御公事(かんとうみくうじ)などの経済的負担とがありました。
つまり、「御恩と奉公」は、将軍と御家人との間で土地を仲立ちとして交わされる主従関係を表したもので、このような関係に基づく制度が封建制度と呼ばれています。
しかし、当時、すべての土地と人は朝廷のものであるという公地公民制はまだ完全にはなくなっておらず、朝廷のものである土地の上に何重にも権利が重なり、荘園の権利関係は複雑になっていました。
したがって、頼朝が御家人を地頭として任命したり、御恩として土地を給付することは、本来朝廷からの命令によって決められるものであり、当時としては違法行為だったのです。
しかし、朝廷は「寿永二年十月宣旨(じゅえいにねんじゅうがつせんじ)」を発し、結果的に頼朝の違法行為を不問に付し、東国(関東)からの年貢納入を保証しました。この宣旨が発された寿永2年(1183年)が鎌倉幕府成立年の一説になるほど、頼朝にとって重要な宣旨でした。
当時の税は、租調庸から引き継がれ、「年貢(ねんぐ)」、「公事(くじ)」、「夫役(ふえき・ぶやく)」と呼ばれていました。「年貢」は、租調庸のうちの「租」の系譜を引き継ぎ、土地に対して収穫されたコメの30%~40%が徴収されました。「公事」は、調に類似しており、海産物・果物・手工業品などの各地方の特産物を収めるものです。そして「夫役」は、労働のことで、佃の耕作、堤防や池溝の築造・修理などの土木工事、領主の屋敷・倉庫の警備、税の運搬などがありました。
日本における封建制度のはじまりに直面した「チームむぎ」。
次回はどんな歴史上のできごとと人物に会うことができるのでしょうか?
参考文献
日本史広辞典編集委員会編『山川日本史小辞典改訂新版』山川出版社、2016年
石ノ森章太郎『新装版マンガ日本の歴史』中央公論新社、2020年
山本博文監修『角川まんが学習シリーズ日本の歴史 5 いざ、鎌倉』KADOKAWA、2015年
北條恒一『日本古代税制史の研究』白鳳社、1986年
平凡社編『新版日本史モノ事典』平凡社、2017年
井筒雅風『日本服飾史 男性編』光村推古書院、2015年
井筒雅風『日本服飾史 女性編』光村推古書院、2015年
下向井龍彦監修『歴史人物できごと新辞典』増進堂・受験研究社、2015年
佐藤信・五味文彦・高埜利彦・鳥海靖編『詳説日本史研究』山川出版社、2017年
笹山晴生・佐藤信・五味文彦・高埜利彦・老川慶喜・加藤陽子・坂上康俊・桜井英治・白石太一郎・鈴木淳・吉田伸之『詳説日本史改訂版日B309』山川出版社、2017年
笹山晴生・五味文彦・吉田伸之・鳥海靖『詳説日本史史料集』山川出版社、2007年
伊藤俊一『荘園―墾田永年私財法から応仁の乱まで』中央公論新社、2021年
永原慶二『荘園』吉川弘文館、1998年
高森明勅『歴代天皇事典』PHP文庫、2006年
田代脩監修『調べ学習日本の歴史(13) 武士の研究』ポプラ社、2001年
多賀譲治『知るほど楽しい鎌倉時代』理工図書、2011年
茂垣 志乙里(税理士)
2012年税理士登録。
イラスト経歴
- 連載:「税理士は社交力が命 4コマDEマナー」『税務弘報』中央経済社、2020年1月号~
- 連載:「DANDANわかる!非営利法人のAtoZ」『公益一般法人』全国公益法人協会、2022年5月1日号〜
- 連載:「税務は洞察力が命 イラストDE分析」『税務弘報』中央経済社、2017年7月号~2018年6月号
- 連載:「税務は洞察力が命 イラストDE分析Ⅱ」『税務弘報』中央経済社、2018年10月号~2019年9月号
- 挿絵:加藤剛毅著『トラブル事案にまなぶ「泥沼」相続争い解決・予防の手引き』中央経済社、2020年
- 共著・挿絵:『今のうちから考えよう相続対策のはじめ方』日本加除出版、2014年
- 共著・挿絵:『年金世代から考える税金とのつきあい方と確定申告』日本加除出版、2015年
- 挿絵:『成功する開業医―院長夫人、あなたが期待されていること』中央経済社、2021年
- 挿絵:『大人のお金の遣い方―税理士に聴いてきました』中央経済社、2021年
- 公式キャラクターデザイン:特定非営利活動法人NPO支援の税理士ネットワーク「のんちゃん」「ぽらちゃん」
- 公式キャラクターデザイン:一般社団法人コミュニティ・カウンセラー・ネットワーク「ヤダもん」