『テーマ別「法務・コンプラ業務」高度化・効率化の実務Q&A―DX/サステナビリティ経営に向けた地図』(『旬刊経理情報』2022年8月1日号掲載書評)

書評

テーマ別「法務・コンプラ業務」高度化・効率化の実務Q&A―DX/サステナビリティ経営に向けた地図
旬刊経理情報』2022年8月1日号の書評欄(「inほんmation」・評者: 武藤 佳昭 氏)に『テーマ別「法務・コンプラ業務」高度化・効率化の実務Q&A―DX/サステナビリティ経営に向けた地図 』( KPMGコンサルティング株式会社〔編〕 )を掲載しました。







わが国の企業にとって、法令違反、契約紛争、社内不正等の法務コンプライアンスリスクは、不可避の現実であるのに突如破滅的な大事になり得る厄介な病原体であり、これを如何にして大事に至らぬよう管理するか、そのための組織体制をどのように構築維持するかは重要なテーマであり、悩みの種でもある。特に、情報通信技術の高度化、地球環境の不安定化、地政学的対立の激化、世界各地におけるローカリズムとグローバリズムの対立、Zの先の新世代台頭、持続性と公正性の企業倫理化など、新潮流から生まれるリスクを先行的に検知し、能動的に対処することが必要とされている一方で、多くの現場ではコンプライアンス意識の硬直化、組織体制の守旧化、人と予算の固定化(むしろ削減)という現実がある。

こうした不安を可視化し、具体的な施策に向けた提言、活動に実働化してゆくためには、従来型の守旧的コンプライアンス意識を変革し、新たな法務コンプライアンスリスクのハンドリングを実践し得る新たな法務コンプライアンス組織体制について、社内ステークホルダーが具体的イメージを共有することが一歩となる。

その一歩を踏み出すにあたり、今の日本企業においてあるべき最新の法務コンプライアンス組織体制の姿かたちを描写し、その作り方・動かし方を現場実務の視点から具体的に論述するこの書籍は、有益な参考情報と参照基準を提供するものとなるだろう。

本書は、日本企業の法務コンプライアンス組織の機能、構築、運用に関する助言業務を専門とするコンサルタント集団が、その経験と実績を踏まえた実務的な視点から、全体として網羅的・俯瞰的でありつつ個々の項目については極めて具体的詳細に、法務およびコンプライアンスの組織体制と運用についてのノウハウを提供するものである。時流に関わらない普遍的な法務コンプライアンスのリスク管理機能とそれを働かせる組織体制についての基礎的な論述と、昨今の潮流を踏まえた新たなリスク要因に対処するための新たな機能についての先進的知見とが、バランスよく紹介されている。項目内容的にも最近の実務動向を踏まえており、たとえば、社内法務コンプライアンスのアウトソーシングやリーガルテックの活用、外国貿易輸出規制や人権侵害抑止法制への対処、AI倫理規制の枠組みなど、最先端の論点についても十分な記述が割かれている。これ一冊をもって自社の法務コンプライアンス部門の現状をベンチマーク評価し、課題を洗い出すためのチェックリストとして用いることができそうである。法務コンプライアンスの第一線と社内リスク管理の責任的立場にある方々は必見と思う。

欲をいえば、組織論を超えた経営論として、法務コンプライアンスを事業推進の一翼、リスクテイク経営のDNAとするための次なる一冊を期待したい。それが今後長く続くと覚悟せざるを得ない世界的不確定性の荒波に乗り出す企業経営者にとって、必須の参考になると信じるからである。

武藤佳昭(ベーカー&マッケンジー法律事務所外国法共同事業パートナー弁護士)

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