『Q&A株式実務ガイドブック』(『旬刊経理情報』2022年8月10日号掲載書評)

書評

Q&A株式実務ガイドブック
旬刊経理情報』2022年8月10日号の書評欄(「inほんmation」・評者: 奥田 亮輔 氏)に『Q&A株式実務ガイドブック 』( 東京証券代行株式会社〔編〕 )を掲載しました。







近年、コーポレート・ガバナンスをめぐる環境は目まぐるしく変化している。

昨年3月には、令和元年改正会社法・改正法務省令が一部の改正事項を残して施行され、株主総会や役員報酬、D&O保険等に関する規律が新しくなった。また、本年4月には、かねてより予定されていた東証の市場区分の再編が実施された。これに先立ち昨年6月には、市場区分再編への準備も兼ねる形でCGコードが改訂され、スキル・マトリックスの作成等、コーポレート・ガバナンスに関わる最先端の議論が取り入れられ、上場企業に対応が求められている。その他にも、新型コロナウイルス感染症の拡大は、株主総会のあり方を変えるとともに、バーチャル総会の導入の動きを加速させることとなった。

そして、本年9月には、令和元年改正会社法・改正法務省令の改正事項として残されていた株式総会資料の電子提供制度に関する規律が施行され、来年3月以降に開催される株主総会において、電子提供措置の実施が求められることになる。

本書は、このような最新の法令等の改正状況に完全対応しつつ、コーポレート・ガバナンスにまつわる実務上のさまざまなポイントをQ&A形式で解説している。タイトルは「株式実務」であるが、株主管理や株主総会運営、配当金の取扱いに関連する内容にとどまらず、たとえば、取締役会運営やCGコード対応、コーポレート・アクションなど、上場企業におけるコーポレート・ガバナンスに関わる実務上の問題を幅広く取り扱っており、その守備範囲はかなり広い。それでいて、細かいポイントまでしっかりと押さえつつ、これらが体系的に整理されており、非常に使い勝手のよい一冊に仕上がっている。

コーポレート・ガバナンスの領域は、関係する法令の範囲が非常に広いことに加えて、証券取引所の取引所規則や、法務省・経産省・金融庁といった関係省庁による公表情報、経団連や株懇といった各団体の発信する情報など、フォローアップしなければならない対象が極めて多岐にわたる。これらの情報を逐一追いかけることは、専門家でなければなかなか至難の業であるが、本書は、これらの情報を的確かつコンパクトにまとめてくれている。そのため、法令等に関わる論点や実務上必要となる対応を押さえておきたい担当者がはじめに手に取る解説書として適任といえる。

また、本書の特徴として、基礎的な内容からQ&Aを設けて解説してくれている点や、図や表を数多く用いて視覚的にもわかりやすい解説となっている点が挙げられる。そのため、中~上級者が検討事項に合わせてQ&Aを検索して参照するだけでなく、初心者がコーポレート・ガバナンスにまつわる実務上のポイントの全体像を理解するためにも、本書は有用であるといえよう。

このように、本書は、幅広い読者層がそれぞれの目的に応じて使うことができるよう工夫が凝らされており、企業法務に従事する多くの実務家に向けて推挙する一冊である。

奥田 亮輔(森・濱田松本法律事務所 弁護士)

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