書評
『旬刊経理情報』2022年11月1日号の書評欄(「inほんmation」・評者: 松本 祥尚 氏)に『実践 不正リスク対応ハンドブック―内部統制の強化、不正会計の予防・発見・事後対応 』( EY新日本有限責任監査法人〔編〕 )を掲載しました。
本書は、多様な現場で不正会計を実体験した26名の公認会計士と弁護士からなる執筆陣による。一度不正会計を行って社会から信頼を失った会社が再生するためには、長い時間に耐えて組織を変えていかなければならない、という執筆代表からの指摘にあるとおり、取り返しのつかない事態になりかねない不正会計をいかに防止・発見・対応するか、は監査人のみならず組織内外の関係者にとっては喫緊の課題である。
不正会計が生じないように、また不正会計の兆候をいかに早く掴むか、さらに発見した不正会計に対してどのように効果的に対応するか、といった3つの視点で本書はまとめられる。実務家によるハンドブックという体裁は採られているが、第1章では不正(会計)の分類や不正のトライアングル等の不正の基礎的な概念を今日的な環境に当てはめて解説するとともに、不正の発生状況や傾向が紹介されている。
また第2章では、コスト削減や業務効率化、勤務形態の柔軟化などへの対応から導入されてきたデジタル化が企業の内部統制にどのような影響を及ぼしているか、という問題について、イメージ文書の改竄という不正の手口とともに、その真正性を確認するためのチェックポイントが説明されている。特にコロナ禍においてイメージ文書によるモニタリングや監査が行われる現状では、実践に裏づけられたチェックポイントは参考になる。
さらに第3章は、不正会計の代表的な手口がわかりやすくまとめられている。具体的には、循環取引・売上の過大計上・棚卸資産の水増し・原価付替え・関連当事者取引に係る不正等が設例とともに示されている。この章での関心は、不正の手口がさまざまであったとしても、一定の傾向があり、原因も共通することが多いという事実を読者にわからせることにある。つまり業界の取引慣行や取引の性質などを悪用した「ブラックボックス」、すなわち盲点を作り出すという基本形に集約させる。
第1章から第3章までの不正会計に関する基本知識に基づき、第4・5・7章において、不正会計の発見・防止・対応について内部統制の構成要素ごとの解説とチェックポイントという形で詳説されている。また第6章は、わが国グローバル企業において頻繁に問題化する海外グループ会社における不正会計のさまざまな実例と内部統制上のチェックポイントが示されている。
以上のように、本書は実務書としての応用のみならず、基本概念を実例に基づいて解説しているという点から教育書としても十分に機能するため、実務でも教育にとっても最良の書と評価できる。
松本 祥尚(関西大学大学院会計研究科教授)
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