書評
『旬刊経理情報』2022年11月20日号の書評欄(「inほんmation」・評者: 松井 泰則 氏)に『計数感覚スキル入門―投資家目線の会社数字に強くなる 』( 玉木 昭宏〔著〕 )を掲載しました。
本書は、株式投資を行うすべての投資家ならびに会社管理職の方をはじめ、中堅クラスのビジネスパーソン向けのスキル入門書であるが、特に投資家目線から基礎的な計数分析をファイナンスの視点を重視しながら会社数字をわかりやすくスリムに解説したものである。
会社財務情報の作成者は会社の内部関係者であるが、逆に外部関係者である投資家はこの財務情報のどこをみようとしているのか。投資家にとって当期純利益はもはや過去の数字であって彼らが知りたいのは、現在の会社の本当の実力と将来の収益性である。会社の実力を知るためには、会社の現在の経営状態、すなわち実践的な分析手法を駆使して財務諸表データを読み解くスキルが必要であり、また、将来の収益性を読むためには、会社の経済・財務的状況、すなわち株主価値、企業価値を算出するスキルを身につける必要がある。前者は会計の世界、後者はファイナンスの世界として領域分けをすることができる。
理論的観点から市場における会社の評価、ポジショニングを正しく理解するうえでファイナンスの知識は不可欠である。本書はこのファイナンスの観点からの分析を重視する。このファイナンス・スキルの学習は、会社の人材育成においても重要である。さらにいえば、ここで学ぶ計数感覚・スキルは、コーポレート・ガバナンスにも密接に関連している。
さて、ここで1つ質問をしてみたい。あなたは次のすべての項目を的確に説明することができるだろうか。どれも基礎的必須のテクカル・タームばかりである。
〈会計編〉
損益分岐点分析と限界利益の関係、持分法による投資利益と損失、有利子負債、インタレスト・カバレッジ・レシオ、ストック・オプション、運転資本とCCC、税効果会計と繰延税金資産、新リース会計処理、のれんと減損、キャッシュ・フロー計算書のしくみと分析的な読み方
〈ファイナンス編〉
企業価値と株主価値、フリー・キャッシュ・フロー、利回りとリスクの関係、CAPM理論、WACC、NPV、IRR、DCF法を含む主な株価算定方法、EBITDA、最適資本構成と株主還元、PER、PBR、ROA、ROE、ROIC
本書よりいくつかピックアップしただけだが、説明できない方も少なくないだろう。本書が計数の感覚スキルに強くなるための必読書だということがわかる。書店には数多くのビジネス書が陳列されているが、その多くが投資家目線が抜けていたり、その内容が実践からズレていたり、消化不良になるほど内容と分量が多かったり、会計あるいはファイナンスに偏重していたりと、「この1冊」といった書物はめったにみかけない。
最後に一言。本書のコラムには筆者の細やかな配慮がみられ、たとえば有価証券報告書の読み方など投資家にとって有益な内容も多く掲載されている。ぜひ手元に置いておきたい一冊である。
松井 泰則(大原大学院大学教授、立教大学名誉教授)
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