『詳解役員給与税務ハンドブック』(『旬刊経理情報』2022年12月1日号掲載書評)

書評

詳解役員給与税務ハンドブック
旬刊経理情報』2022年12月1日号の書評欄(「inほんmation」・評者: 藤曲 武美 氏)に『詳解役員給与税務ハンドブック 』( 稲見 誠一〔監修〕 梅本 淳久〔著〕 )を掲載しました。







役員給与に関する税制の歴史は長いが、平成18年会社法改正などを契機として、役員給与税制は大幅に改正された。改正後の制度においては、定期同額給与、事前確定届出給与、業績連動給与、役員退職給与に大別されることになった。

さらに改正後も、役員の範囲、使用人兼務役員に関する給与、出向者に対する給与などの問題は、引き続き存在する。過大役員給与の問題については、多くの裁判例、裁決例が発生している。

本書は、主にこの改正後の現行の役員給与税制を対象にして、各制度を網羅的に取り上げ、その内容を詳細に解説したものである。

タイトルが「役員給与税務ハンドブック」とされているように、本書は、主に役員給与税制に携わる実務家等にとっては手元において役に立つ解説書となっている。

本書の特徴をあげると次のとおりである。

第一に、役員給与税制に関する項目、領域について網羅的に取り上げている。特に、最近利用が広まっている特定譲渡制限付株式や新株予約権を用いたインセンティブ報酬について詳細に検討している。

第二に、関係裁判例、裁決例などの事例が豊富に取り上げられているのが特徴である。役員給与税制の各項目について、「条文編」にて制度や条文の解説を行ったうえで、「事例編」にて関係する裁判例・裁決例、文書回答事例、質疑応答事例を紹介する2本立ての構成により、制度の理解を深めるのに役立っている。

第三に、多種多様な関係資料の引用、紹介をふんだんに盛り込みながら解説している。

たとえば、①財務省による各年度の税制改正の解説、②関係する各通達に関する趣旨説明文書、③国税庁の文書回答事例、④国税庁の質疑応答事例、⑤経済産業省による「インセンティブプラン導入の手引」、⑥企業会計基準委員会の「実務対応報告第41号『取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い』」、⑦日本公認会計士協会の「租税調査会研究報告第35号『法人税法人の役員報酬の損金不算入規定の適用をめぐる実務上の論点整理』」などがあげられる。

各種の関係文書の引用、紹介に基づいて各制度の内容を詳細に説明しており、解説の内容がより深いものとなっている。

第四に、役員給与税制に関する各制度の解説においては、図表を多用して、できるだけ、わかりやすいように工夫している。

著者は公認会計士、米国公認会計士であり、税務申告業務における経験も豊富に持っている。また、国税不服審判所の国税審判官(特定任期付職員)の経験もある。本書は、著者のこれらの経験を踏まえた解説となっている。

役員給与税制は、ほぼ、すべての法人において発生する問題であり、かつ、最近においては、インセンティブ報酬などの活用が活発化している。そのようななかで、本書は有用な一冊である。

藤曲武美(税理士)

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