書評
『旬刊経理情報』2022年12月20日号の書評欄(「inほんmation」・評者: 榎本 瑞樹 氏)に『いまのうちに聞いておきたいDXのためのデータ管理入門 』( 安井 望〔著〕 )を掲載しました。
COVID-19、未曽有の円高等、企業を取り巻くビジネス環境が急激に変化している状況下、日本企業におけるDXへの期待は高い。「企業変革の救世主だ」といわんばかりに多くの企業が取り組み、政府も後押ししている。一方、DXで競争優位性を確立し、業績に貢献したという話はほとんど聞かない。総じて、日本企業のDXは上手くいっていない。「この現実を直視すべきではないか」というのが本書のスタート地点である。そのうえで、「何が問題なのか」、「どうしたら前に進められるのか」という観点から「データ」、「データガバナンス」に焦点を当て、著者のCIOにおける豊富な経験を踏まえながら解説している。
前半では、今さら聞けないDX用語の基礎知識をわかりやすく解説した後、そもそも「DXとは何を指すのか」、「本当に必要なのか」、「推進するうえでつまずきやすいポイントはどこか」を指摘している。
中盤では、DXの本質を捉えるべく「データ」について掘り下げ、DXとデータの関連性を整理したうえで、DXの肝であるデータを外敵から守るためのサイバーセキュリティ対策とその重要性、抑えておきたい留意点をまとめている。
後半では、いよいよDX推進担当者や経営層が何をすべきか、具体的アプローチや手順を惜しみなく披露している。なかでも軽視されやすい「データガバナンス」の考え方、その際の経営層、実務層の役割をアクションに落とし込み解説し、さらには、自社の現状とギャップをどう埋めるかの解が提言されている。
評者は、2019年からのシリコンバレー駐在経験のなかで、DXにより競争優位性を確立し、見事な企業変革を成し遂げ、コロナ禍においても素晴らしい業績をあげている米国先進企業を目の当たりにしてきた。米国では、もはやDXという言葉は誰も口にせず当たり前のように企業活動に溶け込んでいる。一方、DX推進を支援するITベンダーという立場で、DX祭りに翻弄されながら、なかなか成果を見出せない数多くの日本企業と接している。「企画構想段階での経営層のコミットメントや全社戦略への落とし込みが甘いのではないか」、「データ分析基盤やクラウド基盤がまだまだ整備されていないのではないか」など自身の力不足を実感しながらも、モヤモヤ感が拭えないでいた。
しかしながら、本書にめぐり逢い、DXの本質である「データ」の捉え方、わかっているつもりでいた「データガバナンス」という概念の理解、機能させるための経営層や実務層の関わり方について学んだことで、モヤモヤ感が解消されるとともに、日本企業のDXを成功に導くためのバイブルを手に入れたように感じた。
本書は、単なるコンサルタントの綺麗ごとの理想論ではなく、著者の高いテクノロジー知見とCIO経験に裏打ちされた実践に即したナレッジが詰まっており、ぜひ手に取ってほしい良書である。前著『データドリブン経営入門』(中央経済社)と合わせて読むことをお勧めしたい。
榎本瑞樹(日商エレクトロニクス㈱ エンタープライズ事業本部副本部長)
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