書評
『旬刊経理情報』2023年1月1日号の書評欄(「inほんmation」・評者: 泉 貫太郎 氏)に『フローチャートでわかる経理・財務現場の教科書 』( 吉田 延史〔著〕 )を掲載しました。
百聞は一見に如かずといわれるように、物事から、影響を受け、学び、示唆を得るには、「目撃」することに勝るものはない。しかし、目撃の機会には限界があるため、代替手法として、本・写真・ビデオ・PowerPointなどさまざまな手法・ツールが発明されてきた。そのなかで、経営活動に活かすために生み出されたツールの1つが、本書のテーマである業務フローチャートである。
業務フローチャートは、一言でいえば、業務の流れを表現するものである。では、よい業務フローとは何だろうか?
1つは、その業務フローを見ることで、該当業務の効果・効率・リスクについて評価・改善、あるいは実施手順の伝達に活かせることであることは間違いない。当然ながら、フロー作成自体が目的化してしまっては意味をなさない。
もう1つは、シンプルさである。これは、フレームワークの全般的な特徴であり、作成目的を果たそうとするがために情報を詰め込みすぎて、誰も読まない・理解できないものとなった業務フローには誰もが心当たりがあるかもしれない。ほとんどの種類の文書に当てはまることであり、見たこと・聞いたことを、思想や意志なく羅列するだけでは、魂のこもったものとはならない。理解・示唆を生むためには、目的に沿って、不必要な事柄を削ぎ落とし、シンプルであることが必要である。
本書は、会社がその価値を産むためのバリューチェーン全体を業務フローチャートにより可視化した本である。販売・原価計算等、業種ごとの特徴が出るいわゆるフロント・ミドルプロセスについては業種特性による違いに言及し、同時に、業種共通で会社全体を動かしていくために必要な、固定資産・資金・決算等の間接業務プロセスもカバーしている。
本書の特徴は、前記業種ごとの違いを踏まえつつも、なるべくシンプルに業務フローチャートを描きつつ、かつ、無機質とならず臨場感を持てるよう、補足やリスク説明をエッセンスに絞って記載していることにある。たとえば、製造業の販売プロセスは内部統制上リスクが高いといわれる。その背景には、業務プロセスそのものには表れない、ノルマ達成へのプレッシャーや横領への誘因があることなど、業務を実施するのは感情を持つ人間なのである、ということをあらためて思い起こさせる説明が付記されている。となると、感情を持たないITシステムに依拠し、受注データを出荷データと連携させ、不正や横領への誘因を防ぐ、ということが有効になる...という次第である。このような、業務プロセスを構成する、人・業務フロー・ITシステムそれぞれの要素を個別に解説するのではなく、有機的な連関としてストーリー化した記載は、IT企業および監査法人を経て、業務を多面的かつ深く捉えてきた著者ならではの視点である。
本書の主対象である、経理財務の仕事に就く方やコンサルタントが会社全体の活動を理解するためにはもちろん、情報整理術について学びたい方にもお勧めしたい一冊である。
泉貫太郎(公認会計士・アクセンチュア㈱ ビジネスコンサルティング本部)
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