書評
『旬刊経理情報』2023年1月10日20日合併増大号の書評欄(「inほんmation」・評者: 稲本 義範 氏)に『3つのステップを完全マスター!実地棚卸なるほどQ&A 』( 株式会社エイジス〔監修〕 近江 元〔著〕 )を掲載しました。
小売業に限らず、何らかの商品や管理すべき物品を取り扱うことを仕事の一部としていれば、誰もが定期的に在庫を調査する、いわゆる「棚卸」に携わっているはずである。しかし、あまりにも身近でありながら、その意義や目的については考えたことのある人は少ないのではないだろうか。
本書は、棚卸をなぜやらなくてはいけないのかという素朴な疑問への答えが示されている。また、棚卸そのものについての多くの類書では財務経理的な部分に重点が置かれているが、本書は、実地棚卸について類書にはない視点や記述が多く、より具体的にその目的や実行すべき方法、そのための手段などが実務に即して詳細に書かれている。また、企業経営にとっての棚卸の重要性についても述べられており、経営判断にとって欠かすことができず、在庫を悪用した粉飾についても触れられている。
多くの店舗を悩ます不明ロスについていえば、来店者による万引、従業員などの内部不正、管理ミスが主な原因であり、損失予防に向けての総合的な方策(ロスプリベンション)が必要となっている。しかし、その効果は実際に在庫数値を確認するという棚卸を行わないとわからない。そのためには例外なく厳しく間違いのない数値を集め、集計することが必須である。
本書では、そのことを「数値権威」と表現をしている。権威は人にではなく、正しいプロセスに基づいた数値に宿らなくてはならない。つまり「誰が正しい」ではなく、「何が正しい」かで、判断するべきだと主張されている。
そして、その正しいプロセスを履行することにより、いままでのロスの発生原因が、たとえば仕入伝票の処理時期から発生する、いわゆる期ズレによるものであることなどが丁寧に解説されている。また、棚卸後の原因の追究の方法の1つとして、統計的な手法であるエクセルによる箱ひげ図を使ったロス率分布による商品管理業務レベルの可視化の紹介があり、科学的な妥当性をもって改善が進むよう説明がなされている。
実際、管理担当の方々は「ロスの主な原因は万引だ」と主張されることが多いのだが、棚卸ごとにロス率が大きく変化する店舗は、伝票などの処理ミスに起因することがかなりあり、そのことをロス率のグラフ推移を使って視覚的に解説されている点も本書の秀逸なところである。
全体が明快なQ&A形式で書かれているので、困ったときにすぐに必要な内容について知ることができる使い勝手のよさもある。また、実地棚卸を一から学ぶための教科書ともいえよう。さらにはデジタルサイネージやセルフレジなどの新たなチャレンジをしている方々においても、効果測定の基礎資料として活用いただけるのではないかと思う。
なお、筆者は著者が翻訳したリード・ヘイズ著『ロスプリベンションで未然に防ぐ小売業のロス対策入門』(中央経済社)もデスクにおいて、日々のロス対策の教科書とさせていただいている。
稲本義範(工業会日本万引防止システム協会会長)
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