『「株主との対話」ガイドブック―ターゲティングからESG、海外投資家対応まで』(『旬刊経理情報』2023年6月20日号掲載書評)

書評

「株主との対話」ガイドブック―ターゲティングからESG、海外投資家対応まで
旬刊経理情報』2023年6月20日号の書評欄(「inほんmation」・評者: 大場 昭義 氏)に『「株主との対話」ガイドブック―ターゲティングからESG、海外投資家対応まで 』( 浜辺 真紀子〔著〕 )を掲載しました。







岸田政権は4月下旬の経済財政諮問会議で、日本を国際金融市場としての復活につなげるため、重要政策としてあらためてコーポレート・ガバナンス改革を加速すると表明した。企業価値向上に向けて改革の実質化を進めるとともに、資産運用業を抜本的に改革することも示されている。

そもそも、こうした問題意識は安倍政権が始動した10年前にも表明された。スチュワードシップ・コードとコーポレートガバナンス・コードが矢継ぎ早にまとめられ世界の注目を集めたことは記憶に新しい。ここにきて岸田政権があらためて改革の実質化を表明したのは、その後の日本企業の価値向上への取組みに停滞感が強まっているためだろう。事実、時価総額で比較すると上位に姿をみせる日本企業は極めて限定的で、日本企業の埋没感が強まっている。

資本主義経済で価値を生む主体は企業でしかない。その意味で企業は経済のエンジンといえる。そのエンジンを再生させるには、再び原点に立ち返り、コーポレート・ガバナンスの意味することや、株式市場に上場することの目的を問いただす必要がある。低迷が続くわが国経済の復活には、エンジンである企業の再生は喫緊の課題といえる。本書「『株主との対話』ガイドブック」は企業経営者へのエールであり、柔らかいタッチで描かれた指南書でもある。

著者は上場企業で株主との対話を進めてきた実体験から、上場企業として株式市場から何が求められているのか、何に留意してどのような対話をすればいいか、具体的な実務について詳細に示されている。タイトルは「株主との対話」だが、実際は「株式市場との対話」とも強調している。株主には現時点での既存株主もいるし、将来株主になり得る潜在株主もいるからだ。誰でも株主になり得るから上場企業は社会の公器でもある。上場企業の経営者は株式市場から要請されているものを意識し、常に企業価値向上に向けたストーリーが求められている、ということだろう。

本書でとりわけ経営者に意識してほしい点は第7章だ。そもそも上場する意味は何か、といった原点に立ち返った整理である。日本では上場企業が増え続けているが、先進国ではむしろ上場コストの上昇とともに上場企業が減少しているのが実態だ。本書を通じて、どういった目的で上場しているのか、あらためて問いただし、論点整理してほしい。具体的には、企業価値を持続的に向上させることが目的なのか、上場そのものが目的なのか、ということだ。株主からすれば、企業価値を持続的に向上させることが目的でなければ、投資リターンは期待できず、当然のことながら投資対象にはなり得ない。

持続的な価値向上企業へ導く覚悟があるかが問われており、その覚悟がある経営者にとって本書は価値ある指南書といえる。本書を通じてわが国にも価値創造企業が多数現われ、東証が世界から投資マネーを引き寄せる市場になることを願ってやまない。

大場 昭義(日本投資顧問業協会会長)


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