書評
『旬刊経理情報』2023年2月20日号 の書評欄(「inほんmation」・評者: 上田 孝 氏)に『サステナビリティ人材育成の教科書 』( 村上 芽・ 加藤 彰・ 渡辺 珠子 〔著〕 )を掲載しました。
近年、SDGs・ESG・サステナビリティという言葉を聞かない日はない。地球レベルでSDGsへの取組みは着実に前進しており、また産業界でも「ESG経営」が企業経営の肝になってきたように思う。まさにそのような時代変化のなかで、本書は「企業にとってサステナビリティ経営への対応は喫緊の課題となっている」との問題意識のもと、サステナビリティ人材の育成について極めて的確に取りまとめており、タイムリーな「教科書」となっている。
第1章はサステナビリティをめぐる7テーマをまとめているが、世の中の流れを見事に俯瞰しており、企業活動にとって、なぜ今SDGsなのか、ESGが問われるのか、サステナビリティ推進の本質は何か等をわかりやすく解説している。特に、「5.労働」における自社の従業員を中心とした労働や働き方そのものについてのトピックスは、人的資本開示を要請される今日時点では極めて有効な示唆を含んでいる。
第2章では、サステナビリティを推進する担い手(個人)を「サステナビリティ人材」と名づけ、それはどのような人材なのか、どのように発掘・育成するのかを問題提起しているが、ここは世の流れゆえ止むを得ないと本音では考えている経営者への警鐘であろう。サステナビリティ人材を発掘・育成することによる企業経営へのインパクトとして、①多様性(ダイバーシティ)の確保、②組織内の世代間ギャップの解消、③イノベーションが起こらない停滞感の打破、と指摘している点は企業経営者の心に響く指摘である。
第3章と第4章が本著の肝であろう。一般論としてのSDGs本、サステナビリティやESG解説本は数多くあるが、サステナビリティ人材の育成プログラムをここまで具体的に取りまとめたテキストを私は知らない。社内研修・ワークショップの進め方まで100頁以上を使い、具体的に解説している。
弊社は2021年3月に祖業の造船事業を売却し、新たに「中堅企業連邦」企業として再スタートしたが、その経営の軸に「ESG経営」と「人財重視経営」を据え、10月には「サステナビリティ推進委員会」を設置した。
まず初めに取り組んだのが「サステナビリティ人材」の育成で、グループ各社の40歳前後の中堅社員を40名集め、本書の著者たちを講師に迎えて研修を実施した。その最終回は経営陣へのプレゼンであったが、わが社社員(参加者)がこれほど目を輝かせ、前向きに取り組んだ研修を私は見たことがない。その具体的なノウハウが、本書の第3章と第4章にまとめられている。また、企業経営において「従業員エンゲージメント向上」が話題になる昨今、サステナビリティ推進に取り組むことが大事だと感じたところである。
正直に申し上げて、その研修(サステナビリティ人材育成プログラム)のノウハウをここまで披歴してよいのかという疑問が生じつつも、サステナビリティ推進コンサルの第一人者である筆者や日本総研の懐の大きさを再認識した次第である。
上田 孝(サノヤスホールディングス㈱ 代表取締役会長)
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