『見解の相違を解消するヒント―最新の裁決例が解き明かす5つの視点』(『旬刊経理情報』2023年3月20日号掲載書評)

書評

見解の相違を解消するヒント―最新の裁決例が解き明かす5つの視点
旬刊経理情報』2023年3月20日号 の書評欄(「inほんmation」・評者: 佐藤 修二 氏)に『見解の相違を解消するヒント―最新の裁決例が解き明かす5つの視点 』( 北村 豊 〔著〕 )を掲載しました。







本書は、同著者による『争えば税務はもっとフェアになる』(中央経済社、2020年。以下、「前著」という)の続編として、著者が『税務弘報』に連載した内容を一書にまとめたものである。前著と同様、さり気なく、タイトルが五七五になっているのが心にくい。前著は、四六判・ですます調という手に取りやすい体裁と内容で、一般にはそれほど知られていない国税不服審判所での課税処分の争い方について、事例をもとにわかりやすく解説したものとして、好評であった。何を隠そう、評者も、その親しみやすさにインパクトを受けて、拙著『租税と法の接点』(大蔵財務協会、2020年)を四六判・ですます調で出版することにしたのである。

国税不服審判所の審理は、法的三段論法(法律を「大前提」、事実を「小前提」として、事実を法律に当てはめて結論を出す、という考え方)に従って行われる。ここでいう事実は、「そこにあるもの」ではなく、当事者が主張・立証し、審判所に認定してもらわなければならない。本書は、前著のメッセージであった、勝敗は「事実で決まる」ということを踏まえ、実際に勝つための事実の主張・立証のしかたを、体系的に、かつわかりやすく示したものである。実は、評者は、法曹であったにもかかわらず、どちらかというと(「法的三段論法」で事実認定論と双璧をなすところの)法解釈論が好きで、事実認定論は得意ではない(評者は、2022年10月、弁護士を辞して租税法専攻の大学教員に転じたが、これには、評者が、実務的な色彩も強い事実認定論よりも、法解釈論を好んだことも関係しているかもしれない)。このように、法曹の端くれであったのに事実認定論に苦手意識を持つ評者からみて、本書の内容は、目から鱗であった。

本書では、第Ⅱ章の目次にあるとおり、事実認定論の要諦が、「契約書の判子が推理の出発点」、「相手方の話と合致しているか」、「客観的事実と符合しているか」、「納税者の自白は誤認の元となる」、「当を得た経験則は武器になる」という、5本柱で整理されている。これらは、法曹養成を担う司法研修所で教えられている内容である。しかし、その解説は往々にして難解なものとなりがちだ。

ところが、本書では、前記の目次に使われたやさしい言葉遣いからすぐにわかるように、法曹以外の読者にとっても理解しやすい言葉で説明がされている。難しいことをそのまま難しく語ることは簡単だが、本来難解な内容を誰にでもわかりやすく説明することは、大変だ。本書は、この難事を成し遂げようとした、著者の情熱の賜物であろう。

このような美点を有する本書は、国税不服審判所で課税処分を争うことに興味を持たれる公認会計士・税理士、経理部門所属の税務専門家に広く勧められる。評者も、授業を受講する学生に、租税法務を目指すか否かにかかわらず、法曹であれば必須の素養である事実認定論に関する格好の入門書として、本書を勧めていきたい。

佐藤 修二(北海道大学教授、元弁護士、元国税審判官)

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