『非営利法人の税務論点』(『税務弘報』2023年5月号掲載書評)

書評

非営利法人の税務論点
税務弘報』2023年5月号の書評欄(「BOOKS」・評者: 成道 秀雄 氏)に『非営利法人の税務論点 』( 尾上 選哉 〔編著〕 )を掲載しました。







本著は,第1部「わが国の非営利法人の会計および課税制度の現状」,第2部「非営利法人制度の税務論点」,第3部「諸外国における非営利法人の会計および課税制度」で構成されている。

第1部では非営利法人の課税根拠として主に法人制度,会計制度,開示・監査制度を考察している。第2部では,本著書のメインといえるが,非営利法人の税務上の論点として,「公平・中立・簡素」という課税原則に適う非営利法人の課税制度の有様を検討している。第3部では,グローバルな視点から,米国及び英国の非営利法人課税制度の現状を紹介しており,わが国の今後の非営利法人課税制度のあり方を考察するにおいて有意義な内容となっている。本著を通読することによって,非営利法人課税制度の沿革も含めて全般的な理解を深めることができ,単に非営利法人課税制度を紹介した書物とは一線を画している。

第2部での具体的内容については,まず2006年に公布された新たな公益法人制度を受けての非営利法人課税制度の抜本的改正によって公益社団・財団法人と一般社団・財団法人の間に生じた歪みの解決に向けての検討と,公益社団・財団法人,一般社団・財団法人以外の宗教法人,社会福祉法人,学校法人,医療法人等の課税制度において残された問題点について詳述している。

次に,非営利法人課税制度の収益事業に対する課税での,みなし寄附金の取扱いや非営利法人の保有する有価証券などの金融資産課税に内在する問題点を取り上げる。さらに,金融投資によって発生する利子及び配当の課税上の取扱いの整合性について,新たな視点から検討が加えられており,今後の非営利法人課税制度のあるべき方向について重要な示唆が与えられている。

非営利法人の収益事業は営利法人とのイコールフッティングのために課税されているが,公益法人制度の新設に伴う2008年の税制改正でもって,さらに厳格なイコールフッティングとして普通法人と同じ税率が課せられることとなった。しかし,近年におけるデジタル化の進展で営利法人間での大競争時代を迎え,収益事業を本業として凌ぎを削っている営利法人に対して,収益事業をあくまで副業として捉えざるを得ない非営利法人に厳格なイコールフッティングを課していくことは,非営利法人に対して酷なようにも思える。公益法人においては,軽減税率の復活も考えられよう。また,公益法人の収益事業の支援として,営利法人をM&Aで取り込んで,非営利法人の収益事業を強固なものにするのであれば,何らかの税制上の手当も検討に値するのではないか。

一方,営利法人の経営理念は長期的な利益獲得,拡大にあったが,近年においては人権,ヒューマンビーイング,脱炭素化,自然環境保護といった観点からESGやSDGsに配慮した経営の推進が求められるようになってきた。その軌道修正には,今まで非営利法人が培ってきた理念に同調するものが多いはずである。今後は,営利法人は非営利法人のミッションを熟考して,それをどのように経営理念に取り込んでいけばよいか,さらにそれを具体的にどのように行動に移せばよいか,本著から多くの端緒が得られるであろう。

成道 秀雄(成蹊大学名誉教授)

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