書評
『旬刊経理情報』2023年8月10日号 の書評欄(「inほんmation」・評者: 原 幹 氏)に『Pythonではじめる 会計データサイエンス 』( 稲垣 大輔・ 小澤 圭都・ 野呂 祐介・ 蜂谷 悠希 〔著〕 )を掲載しました。
AIの進化に伴い、会計記録や財務報告の世界にもAI活用の潮流が訪れている。大量のデータから有意な特徴を見い出して、データの価値をビジネスに活用するスペシャリストである「データサイエンティスト」の活躍領域は、会計の世界にも拡がりをみせ始めた。そんな流れのなか、本書は会計領域におけるデータサイエンス=会計データサイエンスの考え方と、実際の使いこなし方について網羅的に解説している。
本書では、「データサイエンス」を「統計や機械学習とプログラミングスキルを使って、ビジネスの課題を解決するプロセス」と定義する。対象読者(ペルソナ)が提示されているので自身が本書に向いているかどうかを確認できるが、特別な予備知識なしに読み進められるだろう。評者は「中規模から大規模組織の経理部門所属のビジネスパーソン」を主な読者ターゲットとイメージした。また、本書には解説を補完するサンプルコードも記述されていて、なおかつダウンロードもできるようになっており、本文を参照しつつ実際に手を動かして、コードの動作を確認することでより知識を深めていくことができる。
第1部「会計データサイエンスの基礎知識」では、初学者向けにデータサイエンスの基礎知識とともに、プログラミング言語PythonやNumPy /pandasなどの分析ツールについて解説があり、予備知識がなくても入りやすくなっている。確率・統計の基礎知識としての数学についても言及する点は、入門段階の読者に親切な構成といえるだろう。
第2部「会計データサイエンスの実践」では、いくつかの実務的なケースをもとに、実際に動作するPythonコードを用いて解説されている。「統計的サンプリングツールの実装」、「会計データに基づく将来売上予測」、「会計データの異常検知」など身近なテーマで語られており、実務家にとって刺激的なテーマになろう。特に「統計的サンプリングツールの実装」というテーマは、監査実務におけるサンプリングの知識を前提とした実践的なテーマを、動作するコードに落とし込んで解説した点で画期的なパートであり、一読の価値がある。後半では「データサイエンスの意思決定への活用」や「データ分析基盤」までテーマを拡大しており、入門者から実務家まで幅広く楽しめる内容になっている。
本書は、具体的なビジネス事例による会計データサイエンスのエッセンスを伝えるとともに、実際に動作するPythonコードによって「なにができるのか」を実感できるような構成で、会計データサイエンスの入口として最適な導線を提供する。とかく概念的になりがちな知識を、初心者に向けて腹落ちしやすく伝えるための工夫が随所にみられ、会計データサイエンスの視点を掘り下げつつ実践的に理解を深めたい読者には格好の入門書である。手元に実行環境を準備し、実際にコードを動作させながら読み進めていくと本書をより楽しめるだろう。
なお、本書のオビを外すと表紙デザインにちょっとした遊び心がみられる。実際に手に取って確かめていただきたい。
原 幹(公認会計士・公認情報システム監査人)
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