書評
『旬刊経理情報』2023年12月10日号の書評欄(「inほんmation」・評者:江黒 崇史 氏)に『起業の道標―上場までのストーリー』(伊藤 一彦〔著〕)を掲載しました。
近年、学生起業や副業からの独立、ミドル層・シニア層の起業など起業への関心が高まっていると感じる。そのようななか、起業を目指す方はもちろん、すでに会社経営に関与している方にも強くお勧めしたいのがこの『起業の道標』である。
本書は2021年に東証マザーズ市場(現グロース市場)に上場を果たしたBCC㈱代表取締役伊藤社長による起業から上場までの道標である。
起業に関する本や上場に関する専門書は多くの書籍が世に出ているが、本書は近年上場を果たした社長自らの経験に基づくリアルな道標という点が特徴である。
章立ては「第1章 会社という存在」、「第2章 事業計画の作り方」、「第3章 資金調達の方法」、「第4章 経営者とマネジメント」、「第5章 IPOの実現」と起業から上場まで、一気に学べる構成となっている。
第1章では、まず「人はなぜ働くのか」という問いかけから始まる。そして、会社とは何か、経営視点とは何か、社会における会社の存在とは何か、を考えることにより、自身の仕事に対して新たな気づきを得られるであろう。
第2章から第4章までは事業計画作成から資金調達方法、マネジメント手法まで会社経営における必須事項の道標を得ることができる。本書で秀逸なのは伊藤社長自らの経験や注意点、時には伊藤社長の反省までも学べることである。上場を果たした社長でも、これほどの苦悩があったのか、と学びが多いことであろう。解説においてもBCC㈱の実例や事業計画、資金繰り表、分析事例などを余すことなく記しており、読者の理解を助けてくれる。事業計画作成1つをとっても、事業の選び方やアイデアの出し方、ビジネスモデルの考え方等具体性が高く、すぐに自身の経営に活かす教えとなっている。特に資金調達では創業期から成長期、停滞期と各ステージにおける会社の状況を、映画のように体験ができる。
さらに、近年は上場前にM&Aの実行や持株会社化により上場を目指す会社も多い。本書ではそのようなM&A戦略や組織再編戦略も同社の実例を通して学ぶことができる。
まさに「本書が単なる一経営者の回顧録ではなく、再現性をもって経営を学ぶことができるようにしたい」という伊藤社長の熱い想いが伝わる実践的経営本となっている。
第5章では上場の実現について、そのスケジュールや外部機関選定、上場審査、資金調達等が述べられている。本章では伊藤社長が上場への道標として特に大切にしていた3つの考えが述べられており、この3つについてはぜひ本書で確認いただきたい。
起業、そして上場と一見華やかにみえる世界も実際は次々と困難が訪れる。本書は伊藤社長自らの経営と学び、反省が赤裸々に述べられており、経営に対する転ばぬ先の杖となる一冊であり、手元に置いておくべき一冊である。
これから起業する方、上場を目指している方、経営に携わっている経営層の方々等、多くの方に自信を持ってお勧めする。
江黒 崇史(江黒公認会計士事務所 公認会計士)
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