『道具としての決算書―長期的に稼ぎ続けるための思考法』(『旬刊経理情報』2023年12月20日号掲載書評)

書評

道具としての決算書―長期的に稼ぎ続けるための思考法 旬刊経理情報』2023年12月20日号の書評欄(「inほんmation」・評者:近藤 康裕 氏)に『道具としての決算書―長期的に稼ぎ続けるための思考法』(三林 昭弘〔著〕)を掲載しました。







筆者は上場企業でのIR(投資家向け広報)に長年携わっていることもあり、普段から会計関連書籍に接する機会が多い。そんななか、以前から貸借対照表や損益計算書の読み方など、理論的な側面に焦点が当たっている書籍が多いという印象を持ち続けてきた。このような書籍は経理担当者の学習用として一定の需要があると思う一方で、企業の経営者や部門責任者が経営判断や戦略策定に決算数値を活用する視点での書籍が不足しているのではないかとも感じてきた。事業環境の変化スピードが早い現代のビジネスシーンにおいて、決算書は情報提供以上の役割を果たす必要性があると考えている筆者にとって、本書はまさに待望の書籍である。

本書は、ビジネスマンによる決算書の経営活用を核としている。前書きには、「メインテーマは、決算書の活用です。貸借対照表(B/S)や損益計算書(P/L)の読み方がわかるという系統の本ではありません。」と記載があることからも、一般的な決算解説書とは違う趣旨で執筆されたのは明快である。

本書は7章で構成されており、全章を通じて決算書の活用法に新たな視点を提供している。第1章では、決算書を理解し、企業価値向上にどう活用するか解説されている。特に、「決算書は上下左右で考える」といった独自の視点が興味深い。第2章では、決算書から重要な情報を読み取る方法に焦点を当て、実用的な手掛かりを提供している。第3章は、投資効率や費用対効果を測るための具体的な手法を紹介し、決算書の実践的な使い方を解説。第4章では、実際のビジネスにおけるプロジェクト単位での決算書の活用法を具体的に説明し、読者に実践的なアドバイスを提供している。

第5章と第6章では、組織全体の成長を考慮した計画立案や実績評価における決算書の活用法を解説。これらの章では、組織レベルでの応用が詳細に解説されており、経営者や部門責任者にとって実践的なアドバイスが含まれている。最終章である第7章では、さまざまな立場から決算書に向き合う方法を探求し、未来の決算書のデザイン方法を提案。この章では、ビジネスマンが社内での立場別に決算書をどう活用するべきかという問いに対する答えが提示されており、著者から読者へのメッセージが凝縮されている。

本書には、著者の豊富な経験に基づいた経営に対する考え方がちりばめられていると感じた。たとえば、第7章「未来の決算書をデザインする」─3「経営者層」では、決算書を活用した未来の「ありたい姿」の表現方法について解説がされており、経営者にとって非常に有益なアドバイスが含まれている。本書を通じて、具体的な活用が必要と感じた企業の経営者の方には、筆者へのコンタクトをお勧めしたい。

「未来の決算書を語る」を提言する本書は、決算書の活用という点において読者に新たな発想を促すのではないだろうか。経営者から第一線で活躍するビジネスマンまで、幅広い層に推薦したい一冊である。

近藤 康裕(㈱IMAGICA GROUP グループ経営管理部 課長)

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