書評
『旬刊経理情報』2024年1月1日号の書評欄(「inほんmation」・評者:小池 良平 氏)に『チェックリストでリスクが見える内部統制構築ガイド』(菅 信浩〔著〕)を掲載しました。
2008年に内部統制報告制度が開始されてから15年が経過し、その間に財務報告の信頼性の向上に一定の効果があったと考えている。一方、経営者による内部統制の評価範囲の外で開示すべき重要な不備が明らかになる事例や内部統制が有効に機能していないと考えられる事例が一定程度見受けられてきた。そのため、2023年4月には内部統制報告制度の改訂が公表されている。昨今、社会環境の変化が早く、企業も環境変化に伴うリスクの変化に速やかに対応していく必要がある。
M&Aの実施後や急成長のベンチャー企業などは環境変化を捉えやすい一方、内部統制をゼロから構築する経験をもつメンバーが少なく、社内にノウハウがなかったり内部統制構築に時間がかかるケースをよく目にする。また、一般的な大企業や中小企業においても、状況に応じて本来変化する必要があるにもかかわらず昔に作った内部統制のしくみが残り、時には形骸化してしまったり、意味をなくしてしまったしくみが多く存在しているケースもある。これらは、監査法人やベンチャー経営の経験のなかで強く感じる点である。
このような問題がおこるのは、内部統制の「なぜ?」を理解し、対応しているケースが少ないからだと感じている。世の中にある内部統制関連の書籍や管理部門にまつわる書籍は、「なぜ?」に応えているケースが少なく、内部統制をなぜ構築する必要があるのか? なぜ実態やリスクに合わせて変えていく必要があるのか? この視点が抜けているため、無駄にコストをかけてしまったり、リスク低減につながらない。
著者は、内部統制報告制度が日本に導入される前後において内部統制の専門家として数多くの上場企業への内部統制構築支援や会計監査および内部統制監査を実践しており内部統制に精通している。加えて、大手総合商社においてM&Aの買収先や投資先の内部統制構築実務を企業側として実践してきている。外からみえる景色と中からみる景色の両面を経験してきているからこそ、単なる教科書的な内容だけではなく、内部統制の「なぜ?」に答える実務で活かせる生のノウハウが詰まった内容となっている。
本書は、管理項目ごとに、リスクと対策が丁寧に説明されているため、それぞれの「なぜ?」の解決に役立つ内容となっていることに加えて、チェックリストや管理に必要な様式例を多数盛り込んでおり、実務にすぐに使える内容となっている。
また、本書のカバー範囲が財務報告に関する内部統制に限らず、ガバナンス、コンプライアンス、人事、IT、契約管理など内部統制を網羅的にカバーしているため、ベンチャー企業でこれから管理部門を立ち上げていく担当者や管理部門に配属されて間もない担当者、経験の浅い監査法人所属の会計士のみなさんにぜひ手に取って読んでもらいたい。
本書を通じて、内部統制によって管理を行う「なぜ?(目的)」とそれに関連するリスクを認識し、会社にとって必要な内部統制の構築や理解に活かしてもらいたい。
小池 良平(㈱ツクルバ上級執行役員CAO)
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