書評
『旬刊経理情報』2024年2月10日号の書評欄(「inほんmation」・評者:佐野 幸雄 氏)に『法人税法の準用規定 読替えガイドブック』(中島 礼子〔著〕)を掲載しました。
本書は、法人税法の複雑な準用規定を解説した、これまでになかった画期的な書籍である。法人税法においては準用規定が多数存在し、特に企業の税務戦略に関連する重要事項(組織再編成・グループ通算制度における欠損金・含み損の制限等)においてその数が顕著である。そのため、法人税法における準用規定の正確な理解の有無が、企業の税務戦略の成否にかかわることが少なくない。
もともとは、法人税実務のスペシャリストである著者が、自身の利用のために作成した「読替条文集」として始まったものであるが、その有用性から編集者の目にとまり、書籍として発刊されるに至ったものである。また、本書は、単なる条文集ではなく、著者により「準用規定の読み方」がわかりやすく解説されており、極めて有用性の高いガイドブックとなっている。
準用規定が非常に厄介な理由は、次のとおりである。
① 準用される条文の内容を確かめるのに非常に手間がかかる。
②「準用」であって「適用」でない以上、その規定は、そのままの字句でその場合にあてはめられるものではなく、そこに事理に応じて若干の読替えを加えつつ読んで、準用される条文がその場合どういう意味をもつかということを判断しなければならない(そういう読替えをどの程度にやったらよいか、場合によっては非常に判断がつきにくく難しいことがある)。
※ 林修三『法令用語の常識』(日本評論社)参照
本書は、これらの課題を解決する独自のアプローチを提供している。本書の最大の特徴は、各規定の初めに何について準用しているのかを簡単に解説したうえで、準用規定、読替え前の条文、および読替え後の条文を並列的に示している点にある。これにより、読者は規定の変更点を直感的に把握でき、理解の助けとなる。特に本書は、次の点で優れている。
1. 条文の並列表示
読者が変更点を容易に把握できるよう、準用規定、読替え前後の条文を一覧表示している。
2. 読替え部分の強調
読替えが必要な部分には視覚的な強調を施し、重要な変更点を見逃さないよう工夫されている。
3. 適用場面の明確化
読替え後の条文に対する適用場面を明らかにすることで、実務上の適用が容易になるよう工夫されている。
4. 規定上明示されていない読替えの明示
法令の読解における疑問点や不明瞭な部分を解消するため、著者の解釈に基づく読替えを示している。
法人税法の準用規定の読替え作業は、従来、時間と労力を要するものであったが、本書を用いることで、これらの作業を迅速かつ正確に行うことが可能となる。その結果、法人税実務に従事する者は、より自信を持って業務に取り組むことができる。本書は、法人税実務に従事する者にとって間違いなく必携の書籍である。
佐野 幸雄(税理士・佐野幸雄税理士事務所)
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