書評
『旬刊経理情報』2024年4月1日号の書評欄(「inほんmation」・評者:原 武彦 氏)に『個人の国際税務Q&A 183日本人と外国人の税務のすべて』(阿部 行輝〔著〕)を掲載しました。
著者の阿部行輝氏は、東京国税局在職中に、海外取引を行っている個人の富裕層や日本に滞在する外国人等に対する税務調査・税務相談業務に従事し、その後は、大手税理士法人において、税理士として外国人の税務を含む個人の国際税務を経験するなど、個人の国際税務についての精通者である。
著者は、現在も個人の国際税務を中心とした所得税の確定申告や税務調査への対応等に従事しているほか、外国人の税務に関する書籍や金融商品(海外の金融商品を含む)のしくみと税金に関する書籍をすでに執筆している。また、これらに関して、税務の専門誌において解説の寄稿や研修の講師も行い、さらに、大学において税務会計論の講義を行うなど、個人の国際税務に関して幅広い活動を行っている。
そのようななか、阿部氏が『個人の国際税務Q&A183─日本人と外国人の税務のすべて』を執筆された。本書では、日本人および外国人の国際税務について、課税関係やその手続に関する論点を網羅しているうえに、最新の相談事例を加え、さらに、外国人の在留資格や社会保険に関するQ&Aも設けられている。
また、最近の税務調査では、海外取引・国際課税がその重点事項の1つとなっていることを踏まえ、税務調査についても触れられている。
本書におけるQ&Aの事例においては、その事実関係や課税関係等を読者がよりスムーズに理解できるよう、図表を多く取り入れながらわかりやすく解説されているうえに、それぞれの事例において、必要に応じて実際に使用する申告書、届出書、計算書、付表等を示して、その記載例が掲載されているなど、これまでの長年にわたる著者の経験を生かした配慮が随所にみられ、読者としては大変ありがたい。
本書では、個人の国際税務を中心に183のQ&Aにまとめられているが、Q&Aの数が183になった経緯は本書で明かされていない。本書ではQ&Aのほかに、そのQ&Aに関係するのコラムが掲載されているところ、この183という数字について、租税条約のいわゆる短期滞在者免税における要件の1つである滞在日数基準が183日以内であること、さらに、居住者か非居住者かの判定において、韓国や米国では、その滞在日数基準として、183日ルールが採用されていることが、そのコラムの1つのなかで解説されている。本書におけるQ&Aが183になった経緯は、これに違いないと私は推察しているが、183にまとめたことも見事である。
本書は、個人の国際税務に携わる税理士・公認会計士、税務・会計事務所職員、税務職員等にとって、ぜひ、備えておきたい著書である。
また、本書は、企業の従業員や役員が海外の関連会社や支店に出張または出向した場合の税務(出国や帰国に伴う所得税の源泉徴収の事務を含む)や海外の親会社等から株式報酬を受領した場合の税務等に関する事例も多く取り上げられていることから、企業の税務担当者にも大変有用な著書である。
原 武彦(税理士・国士舘大学大学院法学研究科客員教授
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