書評
『旬刊経理情報』2024年4月10日号の書評欄(「inほんmation」・評者:佐藤 正勝 氏)に『現場で役立つ「移転価格」入門』(PwC税理士法人〔著〕)を掲載しました。
グローバル取引の深化と高度化が進むなか、納税者には税務当局の情報を常にチェックし、税務ガバナンスを強化していくことがより一層求められている。また、現在各国での導入が進められているグローバル・ミニマム課税は移転価格面からの対応にとどまらず、情報収集とデータ連携、処理の方法・タイミング等、社内各部門との調整・合意がいままで以上に必要とされている。事業活動の各現場において移転価格面からの注意点・対応がますます注目を集める昨今、より具体的なビジネス実務においてどのような税務上の視点が求められているのかに関心を持つ読者も多いことと思う。
本書は『現場で役立つ「移転価格」入門』というタイトルが示すように、移転価格の入門から中級程度の解説書として日系の製薬会社を舞台としたストーリー仕立てで、移転価格の実務を解説する内容となっている。架空の会社を題材として設定し、米国企業の買収を契機としてその後の事業が進展するにつれて生ずるさまざまな局面 (たとえば、共同開発・生産移管・商流変更等 )それぞれについて、主に移転価格面からの留意点と対策の考え方が丁寧に解説されている。わかりやすい解説図も各所に豊富に盛り込まれている。
財務経理部門のメンバーが各テーマについて、税務コンサルタントとともに製造・開発・販売各事業部門の担当者や法務部門との臨場感あふれる会話形式で問題の所在と対処を確認していく展開となっており、移転価格の経験のない者にとっては疑似体験のできる良書といえる。社会人経験のない国際課税を学ぶ学生諸子にも勧めたい。
本書の前半は事業の進展における課題と移転価格面からの注意点、後半は税務調査が来訪した際の対応に加え、より専門的な移転価格手法の適用を中心としたストーリーが展開されており、読み進むうちにより深い話題に入っていける構成となっている。
各テーマについては、PwC税理士法人の国際税務サービスグループ(移転価格)のメンバーがこれまでの豊富な経験を活かしながら執筆しており、実務における問題解決へのヒントに富んでいる。
無形資産の価値が重要な位置を占める製薬会社を題材に移転価格問題を考察しているが、移転価格自体は産業に左右されるものではないため、他業種からみても理解しやすい内容となっている。2015年のBEPS最終報告書での議論、税制改正や執行体制の最新の動向もストーリーに盛り込まれており、まさに「現場で役立つ」のタイトルに相応しい内容といえる。
グローバルな事業展開と企業価値の創出においては、税務部門がステークホルダーとの連携を高め最適化を図るという攻めの税務ガバナンスが重要となってくるといわれているなか、税務に携わる財務経理部門のみならず、経営層や海外の事業展開を企画する部署等々、幅広い方々に本書の一読をお勧めしたい。
佐藤 正勝 (埼玉学園大学 経済経営学部経済経営学科 教授)
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