『IFRS国際サステナビリティ開示基準の実務―影響と対応』(『旬刊経理情報』2024年6月1日号掲載書評)

書評

IFRS国際サステナビリティ開示基準の実務―影響と対応 旬刊経理情報』2024年6月1日号の書評欄(「inほんmation」・評者:井口 譲二 氏)に『IFRS国際サステナビリティ開示基準の実務―影響と対応』(EY新日本有限責任監査法人〔著〕)を掲載しました。







グローバル資本市場において、サステナビリティ要因の重要性が高まるなか、開示ルール策定の動きが激しくなっている。2023年6月に、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)からグローバルベースラインとなる「IFRSサステナビリティ開示基準(以下、「ISSB基準」という)」が公表されたが、日本でも、2024年3月に、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)が、ISSB基準と整合した「サステナビリティ開示基準(以下、「SSBJ基準」という)」の公開草案を公表した(2025年3月までに最終化予定)。また、2024年3月には、金融庁に「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」が設置され、ISSB基準と整合的なSSBJ基準を、どの企業グループに適用し、いつから有価証券報告書での開示を開始するかの議論も開始されている。

このように、サステナビリティ開示は、任意開示の段階から、基準に準拠し、法定開示書類に開示を行う次の段階への移行が求められる状況となっている。また、日本では、次の段階において、現状、SSBJ基準の適用が想定されているが、SSBJ基準は、ISSB基準と整合的な内容となっているため、SSBJ基準を理解するには、ISSB基準への理解が欠かせない。この意味で、ISSB基準について、包括的かつ実践的な解説を行う本書は、企業の開示担当者(財務部門・サステナビリティ部門など)、サステナビリティ開示を活用し、企業価値分析を行うアナリストの双方にとって、まさに時宜にかなった、待望の書といえる。

本書は、4章からなり、基礎的な知識として、ISSB基準の特徴や開発の背景についての解説がなされた後、ISSB基準の2つの基準である、S1基準(全般的な要求事項)とS2基準(気候関連開示)の解説が行われている。そして、最後に、開示実務において課題となる事項を取り上げ、その対応についての考え方が示されている。企業の実務担当者はもちろんのこと、投資家にとっても、ISSB基準の要求事項から実務対応まで理解ができるよう、読者本位の構成となっている。

特に、個人的に感銘を受けたのは、ISSB基準の客観的な解説にとどまらず、一歩踏み込み、現状のルールや(任意での)開示実務を踏まえ、より実践的な解説を試みているところである。すべてを挙げることはできないが、たとえば、S2基準の「ガバナンス」の説明において、コーポレートガバナンス・コードのスキル・マトリックス、「リスク管理」の説明では、COSOのフレームワークなど、すでに読者にとって馴染みがある事項が参考として取り上げられている。このような試みは、読者が、ISSB基準に基づいた開示をより具体的にイメージすることを可能にしよう。

本書は、ISSB基準に準拠したサステナビリティ開示の実務で悩まれている企業の担当者を支援するとともに、投資家のサステナビリティ開示への理解度の向上を通じ、企業と投資家の対話を促進することができる最良の書と考えている。

井口 譲二(ニッセイアセットマネジメント株式会社 執行役員)

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