『アクティビスト対応の実務』(『旬刊経理情報』2024年7月10日号掲載書評)

書評

アクティビスト対応の実務 旬刊経理情報』2024年7月10日号の書評欄(「inほんmation」・評者:石綿 学 氏)に『アクティビスト対応の実務』鈴木 紀子/宮地 真紀子/原山 真紀〔著〕)を掲載しました。







本書は、アクティビスト株主対応の案件に数多く従事してきたIRの専門家が、その実務経験に基づくアクティビスト株主対応のノウハウや知見を惜しげもなく提供する書籍である。まさに、わが国企業のIR担当者はもちろん、IRに従事する経営者にとっても必携の書といえる。

周知のとおり、2014年の日本版スチュワードシップ・コードの策定、その翌年のコーポレートガバナンス・コードの策定以降、日本の上場企業の取締役と株主のパワーバランスは激変した。安定株主は年々減少を続け、現在、わが国は、米国に次いで世界で2番目に株主アクティビズムが盛んな国となった。6月総会において株主提案を受けた上場企業の数は、3年連続で過去最多を記録している。今日では、上場企業である限り、取締役は株主の意向を無視して経営をすることはできず、規模の大小を問わず、株主アクティビズムの対象となり得る。そのため、上場企業は、自社の株主の特徴や議決権行使方針などに対する理解を深め、これを踏まえて経営戦略や事業計画を立案していくことが求められている。

本書は、アクティビスト株主とはどのような投資家であるのかということをわかりやすく説明したうえ、アクティビスト株主の具体的な活動事例を8つ取り上げて解説する。その後、具体的な事例を交えつつ、わが国におけるアクティビスト株主の活動の特徴とその変遷を説明するとともに、投資家側のエンゲージメント部門の現状や、議決権行使助言会社の現状なども解説をする。

これらを踏まえ、アクティビスト株主のアプローチの方法について説明しつつ、上場企業がアクティビスト株主に対応していく際に留意するべき施策をフェーズ0「平時」(アクティビストが顕在化する前)からフェーズ3「株主提案や反対キャンペーンなどの有事株主総会」にいたるまで詳細に説明している。そのなかでは、平時や有事の際の対応のチェックリストなども掲載し、具体的な実務上の施策を丁寧に説明しており、担当者において自社の対応の十分性を確認するためのチェックリスト的な使い方をすることもできるようになっている。

最後に、本書は、アクティビスト株主に対する最大の防御として、平時からIR活動やSR活動を主体的・戦略的に行い、アクティビスト株主への耐性を高めておくことの重要性を説く。

本書も指摘するように、アクティビスト株主からの攻撃は、通常、アクティビストがエグジットをするまで終わらない。そのため、アクティビスト株主の対応をしていくうえでは、アクティビスト株主以外の第三者的立場の株主をアンパイアと見立て、この第三の株主をいかに説得していけるかが重要となる。本書は、この説得のための技術、ひいては上場企業が資本市場という土俵で活動していくマナーそのものを、アクティビスト対応を素材に教えてくれているともいえる。本書が、わが国企業のIR担当者はもちろん、IRに従事する経営者にとっても必携の書であるゆえんである。

石綿 学(森・濱田松本法律事務所 弁護士)

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