『図解 不祥事のグローバル対応がわかる本』(『旬刊経理情報』2024年8月10日号掲載書評)

書評

図解 不祥事のグローバル対応がわかる本 旬刊経理情報』2024年8月10日号の書評欄(「inほんmation」・評者:河江 健史 氏)に『図解 不祥事のグローバル対応がわかる本』竹内 朗/田中 伸英/前村 浩介/中村 和裕〔編〕を掲載しました。







本書を「読む」には2時間あれば十分である。

香港へ向かう機中で、一気に読めてしまった。着陸しながら私は思った。「読み込む」ためにもっと時間が欲しい、と。

不祥事対応は日本国内の事案であっても難しいが、グローバルな不祥事対応ともなればなおさらである。本書は、常に姿を変えるグローバルな不祥事対応についての「今」を知るための入門書として最適である。随所に参考情報がちりばめられることで、単なる入門書としてだけではなく、詳細情報へのインデックスとしても役に立つ。見開き2頁でワンテーマを扱っており、第3章のように類型別の留意点をピンポイントで抑えられる形式となっているため、ブラウジングするような今風の読書もしやすい。

第1章では、グローバルな不祥事について概説している。「グローバルな不祥事とは何なのか、ESGの考え方が広がるなかで、現地法人における不祥事だけを考えていればよいのか」といった、従来の考え方をアップデートすることから始まる。各種事例や参考情報については最新のものが紹介されており、「今」を把握するのに役立つであろう。

第2章では、危機管理の基本的な考え方と、海外のグループ会社と取引先に関する対応が解説されており、第1章と合わせて本書の理論的な柱である。「予防」や「発見」という括りのみならず、「対応」の位置づけについての指摘が興味深い。不祥事調査に関係することが多い身としては、本件調査としての対応目線と、件外調査としての発見目線が不祥事調査において期待されていることについて、本書の解説図からあらためて考えさせられた。

また、組織のリスクマネジメントの考え方として解説されている3ラインモデルを参考にしながら、読者が想起する海外のグループ会社についての位置づけについてあらためて考えてみることも有意義であろう。その際には、本書で触れられている「統制の欠如・統制の不備・統制の限界」という視点を利用して、考えてみてはいかがだろうか。

第3章では、グローバルな不祥事を「架空取引・キックバック」「サイ、バーセキュリティ」、「マネロン・テロ資金供与」、「安全保障貿易管理」、「会計不正・有価証券報告書虚偽記載」、「品質不正・検査データ偽装」、「外国公務員贈賄」、、「国際カルテル」「国際税務・税務コンプライアンス」、「非財務(ESG)情報の開示不正」とテーマ別に類型化し、それらにおける留意点に触れている。この章は本書の実務的な柱である。

本書は、今困っている関係者が、ピンポイントにどうすればよいかを知りたい時に、該当するテーマに目を通すだけでも危機対応に即効性がある。そして、危機が落ち着いた時にあらためて他のテーマにも目を向けることで、留意すべきその他のリスクにも気づく機会や予防統制と発見統制の構築に向けた視座を得ることができよう。

グローバルな不祥事対応に直面する方々の悩みを、読み込み要素が多い本書に触れることで晴らしてもらいたい。

河江 健史(公認会計士)

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