書評
『旬刊経理情報』2024年9月10日号の書評欄(「inほんmation」・評者:福地 恵理 氏)に『いますぐ使える 実践 法務・コンプライアンスドリル』弁護士法人トライデント〔編著〕を掲載しました。
現代のビジネス環境において、法務とコンプライアンスの重要性はますます高まっている。SNSの普及や情報社会の進展に伴い、著作権や商標の侵害、SNS炎上、誹謗中傷などのリスクが増加しているため、企業にはこれらのリスクを事前に回避するための知識と対策が求められている。しかし、多くの場合、「コンプライアンス」という言葉が独り歩きしてしまい、具体的な行動指針が曖昧になりがちでもある。こうした背景のなかで、本書は企業法務に関わる基本的な法律知識をQ&A形式でわかりやすく解説し、実務に直結する内容が豊富に盛り込まれている実践書として非常に有用である。
本書は会社法や労働法、民法といった企業法務に携わるうえで必須となる知識はもちろん、金融商品取引法や独占禁止法といった特定の場面で活躍する法律知識まで幅広くカバーしており、日常業務において法的トラブルを未然に防ぐための基礎知識が提供されている。特に、小規模法人はリソースが限られているため、法務リスクを低減するためにも、本書のドリル形式で実務知識を確認することで、法的トラブルの予防に役立つ。
編著の弁護士法人トライデントは公認会計士と弁護士の資格を両方持つ専門家で構成される事務所であり、その総合的な知見が本書の内容にも反映されている。法務と財務の両面からのアプローチが可能であるため、実務において直面する複雑な問題にも対応できる。このため、筆者のような経営者や企業の法務部員だけでなく、実務に係る法律の概要を知っておきたいというビジネスパーソンにとっても本書は必携の一冊である。
本書は企業法務で頻出の法律テーマ20項目がサマリーとして見開きで図解され、Q&Aのドリル方式で構成されている。たとえばIR担当者であれば、会計の関連知識のみならず、開示手続に伴う会社法や金融商品取引法も学ぶことができ、実務担当者が直面する問題を具体的に想定したQ&Aで理解しやすい。財務諸表分析の手引書などは多くみられるが、コンプライアンスの確保や情報開示の規則といった法的要求については、単なる理論だけでなく、実務に基づいた具体的なQ&A形式で解説されているため、現場での実践にすぐに役立つ点も魅力である。
さらに本書には特定商取引法や景品表示法など日常生活に関連する法律の具体例も豊富に収録されている。これにより、普段法律には直接関わることがない方にとっても意思決定に役立つ情報が提供されている点も特筆に値する。
総じて、本書は、小規模法人が法務とコンプライアンスを強化し、持続的な経営を実現するための強力なツールであり、また上場企業のビジネスパーソンにとっても実践的な知識を効率的に学べるため、一冊手元に置いておくことを強く推奨する。情報社会の進展に伴う新たなリスクへの対応が不可欠であることを考えると、本書は現代のビジネス環境において非常に重要なリソースとなる。包括的な法務知識を学ぶことは非常に意義深いといえる。
福地 恵理(合同会社yuiya代表)
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