書評
『旬刊経理情報』2024年10月1日号の書評欄(「inほんmation」・評者:峯岸 秀幸 氏)に『詳解 ポイントサービスの消費税』真鍋 亮平/日隈 将人〔著〕を掲載しました。
楽天ポイントや航空会社のマイレージなどに代表されるポイントサービスは、その在り様が日々刻々と移ろっているがゆえに、経理実務の参考になる実務書は決して多くない。そのようななか、本書は、ポイントサービスの消費税という一側面について扱うものではあるものの、著者らのポイントサービスそのものに対する深い理解と洞察がふんだんに披露されており、税務に直接かかわらない方の仕事にも役立つことを請け合える一冊である。
本書では、まずポイントサービスの類型とその法律関係が述べられている。課税関係ではなく、たとえば会計処理を検討するにせよ、特に法律関係を含むポイントサービスそのものの理解を軽視してはならず、むしろ前提として不可欠である。この部分が丁寧に論じられているがゆえに、すでに本書には経理実務に向けた価値があるといえる。
そして消費税の課税関係について、ポイントの適用範囲による分類―「自社完結型ポイントサービス」か「共通ポイントサービス」か、ポイントの使用場面による分類―「景品との交換」か「対価の形成」か「対価の値引き」か、という類型別に論じていく。一読すると、検討対象とするポイントサービスがどの類型に当たるかを特定することの重要さが理解できよう。さらに、最終章で述べられるポイント交換の課税関係は、著者らが代理人となり納税者勝訴となった大阪高裁令和3年9月29日判決の内容に踏み込むもので、消費税法上の「対価」について従来と異なる判断基準を示した点で注目される本判決の読み方の、当事者による貴重な解説である。
ポイントサービスの税務について、実務や裁判例の十分な集積があるとはいえないなか、著者らは、先行する文献や裁判例を踏まえ、多角的で丹念な論証を重ね、確かに結論を導いている。個別のポイントサービスの課税上の取扱いは、ポイントサービスそのものの急速な変容と多様性も相まって、残念ながら国税庁が示した公的見解をみればすぐに了知できるような代物ではない。本書に示されているのは、租税訴訟を手掛ける著者らがプロとして行った綿密な調査と高度に専門的な判断の成果なのである。
それにしても、「ポイントサービスの消費税」という限られたテーマで240頁という分量である。にもかかわらず、本書は決して冗長ではないし、平易な文章でありながら理路整然としているから、一気呵成に読み進めることができる。わずかながら実務書の執筆経験がある評者にとって、その背景にどれだけの膨大な文献調査と思考の積み重ねがあるのか、想像に難くない。
評者が本書をご恵贈いただいた際、そのことをSNSに投稿したところ、先輩筋に当たる第一線で活躍する実務家から「本書が大変勉強になった」とコメントをいただいた。評者の投稿にわざわざお世辞をコメントするような間柄の方ではない。実績のある実務家も信を置く濃密さを誇る本書を是非お手に取り、そして実務に役立てていただきたい。
峯岸 秀幸(公認会計士・税理士 税理士法人峯岸秀幸会計事務所 代表社員)
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