書評
『旬刊経理情報』2024年10月10日号の書評欄(「inほんmation」・評者:徳井 邦夫 氏)に『現場目線の業績管理入門―レオパレス21における経営危機後の改善策』日野原 克巳〔著〕を掲載しました。
本書においては、どれ1つとして目新しい論点はなく、ごく「ありふれた」手法を用いており、まさしく、業績管理の正攻法を説いた書籍といえよう。どのような会社に対しても応用が利くはずであろうから、是非、自社や取引先などに置き換えてほしいと思う。
また、損益管理や経営分析を含め、一般的な業績管理の手法が網羅されており、かつ、それらが頭の中で整理されるように、一気通貫で説明されていることも本書の特徴の1つである。
私の知り合いのコンサルタントに、顧問先の経営者にアドバイスする際には、どうしても直接原価計算は外せないという方がいる。やはり、本書に記載されたような手法をひと通り習得しておく必要がある。
本書のもう1つの特徴として、これらの手法について、一切難しい計算や表現を用いることなく、とにかくわかりやすさを心がけていることを挙げることができる。
前作の『経営危機時の会計処理』(中央経済社)や『監査法人との付き合い方がわかる本』(中央経済社)と同様、読者としては若手の経理担当者を意識しており、現預金や当期純利益といった一般的な指標を用いるとともに、足し算引き算レベルでの経営分析を提示し、ROAを取り入れるべきなどというわかりやすい主張を展開している。
巷(ちまた)に業績管理の専門書は数多(あまた)あるとはいえ、実務に生かすには深掘りしすぎて、もはや、自己満足ともいえるような書籍も散見される。やはり、実際の経営にあたっては、わかりやすさは欠かせないということであろう。
本書は、社内の表彰式において損益が示されない業務が表彰を受けたことに対して、筆者が強い違和感を覚えるというエピソードが紹介されている。
また、こうした違和感から京セラ創業者の稲盛氏の書籍を買い求めるなど、いかにも経理担当者らしい発想であり、読者の共感を得るように思う。
一方、たとえ、業績管理の手法が理解されたとしても、どのように社内に浸透させるべきかという、まったく別の問題が残っている。この点につき、本書においては、業績を人事管理に直結させるべきとの主張がなされているが、やはり、まずは、CFOを含む経営層に理解されないことには始まらない。その意味では、本書は若手の経理担当者を対象として書かれているとはいえ、経営層の方々にとっても一読の価値があるといえるのではないだろうか。
なお、巻末において、他部署への貢献と批判的精神の醸成という著者の元勤務先社長の考えについての文章が紹介されている。私も十分に理解するところではあるし、筆者も大いに共感したからこその掲載であろう。
この社長はよい上司でもあったのであろうし、そもそも本書の出版を認めるような心の広い人物であろうから、著者は恵まれた勤務生活を送ることができたのではないだろうか。社長の期待に応えるためにも、本書が多くの人に読まれ共感を得られることを祈念してやまない。
徳井 邦夫(株式会社TBSホールディングス 特任執行役員 公認会計士)
記事掲載書籍をカートに入れる