『サステナビリティ経営・開示のためのGHG排出量算定ガイドブック』(『旬刊経理情報』2024年11月1日号掲載書評)

書評

サステナビリティ経営・開示のためのGHG排出量算定ガイドブック 旬刊経理情報』2024年11月1日号の書評欄(「inほんmation」・評者:阪 智香 氏)に『サステナビリティ経営・開示のためのGHG排出量算定ガイドブック』あずさ監査法人・KPMGあずさサステナビリティ〔編〕を掲載しました。







気候を含むサステナビリティ開示基準の開発・普及が、グローバルレベルで急ピッチに進んでいる。国際基準(IFRSサステナビリティ基準)や日本基準案(SSBJ基準案)で求められるのは、脱炭素社会への移行がビジネスに与える影響の開示である。その第一歩として、現状把握のために温室効果ガス(GHG)排出量を算定し、どのように削減につなげていくかを示すことが重要となる。

これまで日本では、GHG排出量を「地球温暖化対策の推進に関する法律」(温対法)に基づき算定してきた企業も多い。SSBJ基準案では、温対法を用いる余地を残しつつも、「温室効果ガスプロトコルの企業算定および報告基準(2004年)」(GHGプロトコル)に従うこととなっており、海外の排出量の把握を含め、その対応に悩みや疑問が尽きない方も多いだろう。本書は、そのような方々にとって、まさにバイブルとなるGHG排出量算定の決定版である。

第1章では、なぜGHG排出量算定が重要となってきたのかの背景を、第2章では、GHG排出量算定の国際的ルールであるGHGプロトコルとその算定方法を学ぶことができる。ここまでで、「まず用語がわかりません!」という悩みが消える。ここからGHG排出量の測定が始まる。第3章に沿って、企業等が直接排出するスコープ1を算定し、第4章に沿って、企業等が購入した電力等が間接的に排出するスコープ2を算定すると、「自社(組織境界内)の排出量を見える化できた!」というステージに達する。見える化の目的は削減につなげるためだが、第5章では、削減に向けた行動変容を促すカーボンプライシング(炭素に価格付けする)について学ぶことができる。

最近では、自社が関係する排出のさらなる削減を目指して、スコープ3の排出量を把握することも求められる。スコープ3は、バリューチェーンにおいて自社以外の上流・下流で発生した排出量である。これを把握することで、排出が多い箇所を明らかにして削減対象を特定したり、他社と連携して効率的に削減したりすることができるようになる。

「他社の排出量なんてどうやって算定するの?」という疑問には、第6章で、15のカテゴリ別に算定方法を教えてくれる。さらに、スコープ3排出量の削減に参考となるのが、第7章のカーボンフットプリントである。

第8章では、「この情報はサステナビリティ開示や経営意思決定に実際に使えるの?」という悩みを、「①情報・報告の信頼性」、「②情報収集のスピート」、「③プロセスの効率性」の3つに整理し、丁寧に答えてくれる。

著者らは、早くからGHG排出量算定、サステナビリティ開示、デジタル技術活用等の支援を行っており、そこで蓄積されたノウハウがこの本に凝縮されている。気候変動への対応という観点では、算定することはあくまで入口に過ぎない。そこから、具体的な削減への道筋を事業戦略に落とし込み、取り組むことが重要である。本書は、このゴールに向かって、力強く読者をサポートしてくれる。

阪 智香(関西学院大学商学部教授・商学博士)

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