『アクティビストの正体―対話と変革を促す投資家の戦略』(『旬刊経理情報』2024年11月10日号掲載書評)

書評

アクティビストの正体―対話と変革を促す投資家の戦略 旬刊経理情報』2024年11月10日号の書評欄(「inほんmation」・評者:平山 賢一 氏)に『アクティビストの正体―対話と変革を促す投資家の戦略』菊地 正俊〔著〕を掲載しました。







歴代政権によるコーポレート・ガバナンス改革への取組みが活発化し、その流れの一環としてアクティビストに注目も集まるようになっている。いうまでもなくアクティビストとは、企業の経営方針や戦略に積極的に関与する「モノ言う株主(投資家)」を指す。最近の経済ニュースでは、アクティビストの名前を目にしない日はないといってもよいだろう。それだけに、どのような行動原理に基づき、アクティビストが企業と接しているのかという疑問が生じるはずだ。これまで聞いたことのある金融機関の名前を冠しているのであれば、一定程度イメージできるだろうが、初めて名を聞くアクティビストも多く、その実態を推し測る術は皆無に等しい。

本書は、このアクティビスト・ブームの実態を、現場のストラテジストならではの調査の結晶として、惜しげもなく明らかにしていく。実像がみえないものを、みえないままにしておくほうが、専門家にとっては都合がよいはず。しかし、そのみえないものを「見える化」する地道な作業を通して、市場の効率化に寄与していこうとする著者の使命感が行間に見え隠れする。

コーポレート・ガバナンスの歴史を遡ると、戦前でこそ企業経営に対する株主の関与は大きかったものの、戦後の上場企業では、経営者主導の事業運営が常態化してきた。借入金が多い時代の経営者は、債権者であるメインバンクとの良好な関係を気遣ったものの、過去20年間に上場企業の自己資本比率は上昇している。主たる資金調達先は、株主に転じたとはいえ、金融機関による株式保有や株式持合いも多く、経営者に対する株主からの圧力もそれほど大きなものではなかった。それだけ企業経営者にしてみれば、自律的な運営がしやすい時代を謳歌できたわけである。

しかし、近年は、この状況に変化が見え始め、株式を介した資金調達先からの牽制を受けやすくなっている。経営方針などについての提案や要求がアクティビストから寄せられ、企業の財務や戦略部門は、その都度、適切に対応する必要がでてきているからである。とはいえ、株主による関与に慣れない企業にとっては、その対応に苦慮しているというのが正直なところだろう。

アクティビストは、私利私欲のために投資しているとの指摘もあり、投資される側の企業は、近視眼的な要求に身構えるケースも多い。だが、著者は、「日本の株式市場をよくするために、アクティビストの存在が必要だ」と主張し、その処方箋を示す。本書のなかに散りばめられた数多くの事例を通して、アクティビストの行動原理を把握できれば、株主提案の背景にあるロジックを把握できるはず。それを活かして、中長期的な価値創造の道筋を示せるならば、企業の実態価値と株価の乖離を解消していく道筋もみえてくるかもしれない。

新たな政権による経済運営の方向性が変わらないのであれば、企業経営者にとって、ますます、このようなアプローチが求められるようになるだろう。

平山 賢一(東京海上アセットマネジメント株式会社)

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