『スピードマスター国境を越えて働く人の税務100』(『旬刊経理情報』2024年12月10日号掲載書評)

書評

スピードマスター国境を越えて働く人の税務100 旬刊経理情報』2024年12月10日号の書評欄(「inほんmation」・評者:髙橋 里枝 氏)に『スピードマスター国境を越えて働く人の税務100』矢内 一好/高山 政信/廣瀬 壮一〔著〕を掲載しました。







国境を越える人の移動は、経済のグローバル化を進展させてきた。もはや、人の移動なくしては、経済は立ちゆかない時代である。新型コロナウイルス感染症により人や物の移動が制限されたとき、コロナショックという経済停滞にさらされたことは記憶に新しいところである。データをみても、本書第1章で記載されているとおり、在外法人数および在留外国人数も増加傾向にある(ただし、コロナ禍の影響を受ける時期を除く)。

従来、邦人の海外移住は、富裕層による税負担軽減または海外勤務社員の転勤が主たる目的であった。しかし、近年は、生産性向上・イノベーションの創発や投資拡大を生み出すために「内なる国際化」を目指す方向性を示し、高度な知識や技能を有する外国人材の獲得に積極的に取り組んでいる(経済産業省『2023通商白書』第Ⅱ部第2章第5節)。このような傾向はわが国だけでなく、世界中で見て取ることができ、今後ますます人の移動、さらにいえば、本書のタイトルにあるように、「国境を越えて働く人」が増加することになると思われる。加えて、ワーキングホリデービザ発給数も、新型コロナウイルス感染症防止のための期間を終えた2023年度は過去最高を記録した。わが国の若者が海外で働くことを身近なものとして捉えていけば、一層、「国境を越えて働く人」が増えるであろう。

本書は、「国境を越えて働く人」にとって、必要な税務の知識はもちろん、銀行口座の開設、社会保障制度、優遇措置やビザの発給、住宅事情などを幅広くカバーしている。また、わが国を出国して海外で働く人だけでなく、わが国で働く外国人にとっても、必要な情報を提供しており、邦人が海外で働く際にも、わが国の企業が外国人を雇用するにあたっても役立つ。わが国からの出国先については、米国はもとより、アジア地域や欧州地域を含め、多くの邦人が滞在する国や興味を持っている国を取り上げている。

注目点として、第5章の「国際相続と税」があげられる。「国境を越えて働く人」に関係する税目として、所得税に着目しがちであるが、そこで財を成したり、そのままその国に留まる場合などを考えれば、相続税も必要な税目になる。

著者らは、これまで多くの国際税務に関する実務書および研究書を上梓してきた知識と経験を有する税理士(元国税職員を含む)と元大学教員である。本書は、著者らの豊富な経験と知見をもとに、実務において頻出の論点が100項目に整理され、1項目につき見開き2ページとし、「見出し」 →「結論」 →「結論に至る説明」の順で構成されている。要点を素早く掴むことができ、記憶にも残りやすい。タイトルのとおり「スピードマスター」できるだろう。

ぜひ本書を手元に置いていただきたい。海外で働く際に必要な知識が何であるかを、読みやすく、わかりやすく説明している。専門家だけでなく、海外で働く予定のある人、外 国人を受け入れている、または受け入れる予定の企業のみならず、これから将来のキャリアを検討する人にも役立つだろう。

髙橋 里枝(武蔵野大学経営学部会計ガバナンス学科准教授・税理士)

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