書評
『旬刊経理情報』2024年12月20日号の書評欄(「inほんmation」・評者:熊谷 五郎 氏)に『サステナビリティ情報開示の実践ガイドブック』藤野 大輝〔著〕を掲載しました。
サステナビリティ開示(以下、「サステナ開示」という)については、テーマや課題が多様であることもあり、ちまたには情報が氾濫している。それらをバラバラに追いかけていても、木を見て森を見ずになりがちである。また何のための開示か、意義を見失いがちになる。一方、全体を理解したつもりになっても、細部も理解しておかないと実務には役立たない。
木と森とをバランス良くまとめたのが本書である。企業がサステナ開示に取り組むのは、本来は投資家に情報開示をするためではなく、自社の企業価値を高め、持続的な成長を実現していくためである。つまり開示のための開示ではなく、サステナ課題への対応を経営プロセスに落とし込むことが必要なのである。ここを押さえておかないと、開示に振り回されて、やらされ感ばかりが強くなる。
本書はサステナ開示について、何から手をつけてよいかわからない企業の実務担当者にとっては必読書であるといえる。本書は、サステナ開示について、担当者が知るべき必要不可欠な情報を整理して提供している。また、主たる情報利用者である投資家およびその他の利害関係者にとっても、錯綜するサステナ開示を巡る状況を、体系的に理解するのに便利である。
第1章はESG投資の拡大と投資手法、投資家が何を求めているのか、企業が投資家やESG評価機関への対応において留意すべき点を、手際よくまとめている。第2章はCGコード、有報等、わが国の開示制度の枠組みにおいて求められるサステナ情報が詳しくまとめられている。
第3章は、2023年時点の開示状況を踏まえた、対応のプロセスとポイントが語られる。著者の考えるベストプラクティスのポイントが丁寧に解説されており、企業のサステナ関係者にとっては、サステナ課題の自社の経営プロセスへの落としこみ、開示戦略の方向性を考えるうえで、大いに参考になろう。本書にとっては、中核となる章といえるだろう。
第4章は、ISSBによる国際的な開示基準の統一とわが国への影響や、国際的に注目が高まっている生物多様性に関するTNFD提言について、第5章では、サステナ開示の国際的リーダーである欧州の動向を中心に主要国の動きが解説される。第6章は、まとめの章であるが、実態に基づく開示の重要性や、第三者保証の問題等、今後のサステナ開示拡充の方向性が示されている。
企業の担当者としては、本書でまず全体像を把握し、自社のサステナ戦略を立てたうえで、課題への対応を経営プロセスに落とし込み、サステナ開示のための体制整備、利害関係者とのコミュニケーション戦略を考え、実践していくというフローが理想的であると思われる。
その意味で、本書はサステナ開示を巡る、錯綜した情報を整理するうえで、格好のガイドブックとなっている。すでにサステナ開示の実務を行なっている作成者には、自社の開示について自己評価を行う際の参考になろう。
熊谷 五郎(公益社団法人日本証券アナリスト協会企業会計部長・東京大学金融教育研究センター招聘研究員)
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