書評
『旬刊経理情報』2025年2月10日号の書評欄(「inほんmation」・評者:久原 勇作 氏)に『経営のための「調達」―見落とされてきた活用戦略』PwCコンサルティング合同会社調達高度化チーム〔編〕を掲載しました。
本書は、調達機能が企業価値向上の源泉となり得ることを経営者に示しており、タイトルどおり経営者に向けた調達改革の指南書とも位置づけられる。経営は日々高度化している。定例のローテーションで、調達経験が乏しい者を調達担当役員 (CPO)に指名することが一部の日本企業にいまだみられるが、一般的な経営能力だけでCPOは務まらない。経営能力に加え、調達に関して専門的かつ体系的に習得した能力を実地に応用することで調達の高度化は可能となる。本書で紹介されているCPSMはグローバルに最も評価されている調達資格の1つで、将来のCPOを育成する教育プログラムである。海外ではCPSMを雇用の資格要件としている企業が多い。本書は、そのプログラムの視座をさらに高めた内容が多く含まれている。調達活動から業務処理を主業務とする機能を区分し、より付加価値の高い機能に焦点を当て、その高度化の必要を経営者に提起するとともに、高度化のための戦略的な方法を数多く提示する良書である。
さて、調達組織は事業活動と連鎖するサプライチェーン全体の効率化と最適化を追求する。よくサプライチェーンと対比されるバリューチェーンが価値創造の連鎖であるのに対し、サプライチェーンはバリューチェーンを物理的に置き換えたものと考え得る。つまり、価値創造はサプライチェーンによって具現化する。財務的には、投入コストから創出するキャッシュが再投資の準備額を上回ることができなければ、企業価値を維持できず、価値創造は不十分である。したがって、必達のフリー・キャッシュ・フローは、事業活動に投入される外部資源のQCDを調達組織が戦略的に管理できていないと確保できない。本書が提起する調達ROIはこの調達本来の役割を可視化し調達の高度化に貢献するだろう。
その一方で、本書は調達組織にブランド価値向上も命題に与えている。ブランディングを端的にいえば、企業およびその商品のイメージを消費者の知覚にプロットすることである。知覚が態度を形成し消費行動を促す。そのため、レピュテーションがブランド価値にとって最大の脅威となる。調達組織が負う主要なレピュテーションリスクは、QCDの不全によるリスクとESGに関連するリスクだろう。これらはサプライチェーンからもたらされる。戦略的なサプライヤー関係マネジメント(SRM)はQCDの最適化を促進し、サプライチェーンの健全性を確保する。そのためには、調達カバー率の拡幅と、一次仕入先のみならず二次仕入先以降の可視化は必須であろう。結果として、本書の提起どおりプロアクティブな攻めの調達リスク管理が可能となる。
最後に、本書は実践手法と実例も多く提示しており、調達組織の実践書としてもすぐに使える。本書に従えば、経営と調達組織が一体となり、調達の高度化に向けた戦略の道筋がみえるだろう。調達機能の高度化を目指す企業にとって、経営者の指南書だけでなく、調達組織の実践書としても活用することを推奨したい。
久原 勇作(特定非営利活動法人日本サプライマネジメント協会 代表理事)
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