『業務をまるごと見える化する経理・財務のフローチャート40』(『旬刊経理情報』2025年2月20日号掲載書評)

書評

業務をまるごと見える化する経理・財務のフローチャート40 旬刊経理情報』2025年2月20日号の書評欄(「inほんmation」・評者:中村 直樹 氏)に『業務をまるごと見える化する経理・財務のフローチャート40』菅 信浩〔著〕を掲載しました。







著者の菅信浩氏は、公認会計士としてあずさ監査法人での実務経験を有するほか、大手総合商社で実務家としての経験も有している。これまでは監査法人の立場からみた内部統制に関する書籍が多数あるものの、実務の視点が欠けていた。実務家としての立場からも論じられた本書は非常に希少価値の高い書籍である。大手総合商社での単体決算はもちろん、多数の海外子会社まで含んだ膨大な連結決算を組んだ経験からJSOX(内部統制報告制度)や上場審査までを踏まえた幅広い論点を網羅している。

本書の特徴としては、文字だけで説明するのではなく視覚的にもわかりやすいフローチャートで説明がされている点である。そのため経理部門での経験が浅い方にとっても、各経理業務の内容がイメージしやすい構成となっている。経理業務を内部統制に着目して説明がされているため、より効率的な業務の運用を意識することができるように意識されている。また、経理業務の細かい部分にのみ着目してしまうと全体像がみえにくくなってしまうため、その点も意識して記載されているのも特徴である。内容も簡単すぎるものではなく、初学者がギリギリ理解できるレベルでかつ実務的な内容となっている。

本書の前半部分では、第1章から第9章までにおいて個別決算で必要となる各経理業務の内容を説明している。特に不正が起こりやすい領域である現金預金管理(第1章)や販売・売上債権管理(第3章)、棚卸資産管理(第5章)においては不正を防止するための内部統制についても意識して記載されている。第11章においては、決算業務の全体像を記載している。事前準備の進め方から始まり、役員や監査法人への説明までも意識された内容となっている。さらに実務では法人税申告業務は顧問税理士に頼る部分も多くなりがちであるが、本書においては第12章で関係部署や税務署への事前照会、申告書の作成および提出まで簡潔に説明されている。

本書の後半部分では、第13章において連結決算業務について記載されている。連結決算の全体像を、イメージ図を入れながらわかりやすく説明しており、実務でよく使われる連結パッケージや連結精算表についても簡潔に説明がされている。さらに連結キャッシュ・フロー計算書の作成方法にまで触れられているので、連結決算の全体像がつかめる内容となっている。第章以降では上場申請において必要となる予算管理、資金調達管理、各種規程についても記載されている。

本書の最も素晴らしい点は、フローチャートや各種規程がダウンロード可能な点である。本書からダウンロードした資料を各社ごとにカスタマイズすることにより、効率的に社内資料の作成も可能となる。本書は経理業務の全体像を意識した書籍となっており、さらに個別的な論点の確認には『チェックリストでリスクが見える 内部統制構築ガイド』(中央経済社刊)もお勧めである。この2冊を参考にしていただけると、経理業務における内部統制のポイントは網羅的に理解できる。また、社内の研修にも有効活用できる書籍である。

中村 直樹(RSM清和監査法人 IPO支援室最高責任者、人事部門最高責任者)

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