書評
『旬刊経理情報』2025年3月1日号の書評欄(「inほんmation」・評者:木村 秀偉 氏)に『内部統制文書化・評価ハンドブック―6つの重要プロセスと財務報告ガバナンス』Forvis Mazars Japan有限責任監査法人〔編〕 高田 康行〔著〕を掲載しました。
「内部統制」は、内部統制報告制度の適用によって広く認知されるに至ったものの、多くの企業で、金融商品取引法の要請を守るためのコストとみなされ、浸透してしまっている。本書は、コーポレート・ガバナンス、サステナビリティ、サイバーセキュリティといった企業が直面する諸課題と「内部統制」とのつながりを考察することが、企業の持続的な成長のために役立つのではないかという著者の問題意識から生まれており、「内部統制」の本来的意義とその活用の可能性を示す。その構成は、PARTⅠ「内部統制の基本的枠組みと内部統制報告制度」、PARTⅡ「6つの重要プロセスとキーガバナンスポイントの文書化・評価」、PARTⅢ「6つの重要プロセスに関するポジション・ペーパーの検討例」の3部から成る。
PARTⅠでは、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」等の規定間の関連性、そして改訂の変遷の観点から、内部統制の概念が立体的に表現され、経営者視点で内部統制を考える「トップダウン型のリスク・アプローチ」が示されている。また、企業とともに進化した内部統制は経営戦略上の重要な差別化要因となるため、守りだけでなく攻めもカバーする内部統制へと成熟度を上げていくことで企業の持続的な成長を達成する内部統制セントリックな企業の成長モデルが示されている。
PARTⅡでは、「財務報告ガバナンス」を実装する6つの重要プロセスが示されている。これは、財務報告によって企業の事業活動全体をコントロールするアプローチである。具体的には、企業の持続的な成長のための経営戦略立案や事業計画策定の前提となる経営者による判断や会計上の見積り、すなわち、「事業計画上の要点(経営のメッセージ)」をキーに、将来の「なりたい姿」からバックキャストして6つの重要プロセスに係る内部統制を検討する。
PARTⅢでは、PARTⅠ・Ⅱでの考え方を文書化・評価するためのポジション・ぺーパーの検討例が示されており、読者が〝たたき台〟として業務にすぐに活用できる実用的な内容となっている。
本書は、わが国の内部統制報告制度の黎明期から最前線で企業を支援し、内部統制と真摯に向き合ってきた著者だからこその視座で著され、形骸化した内部統制実務に魂を吹き込む渾身の書である。また、内部統制の実践知を詰め込んだ600ページを超える本書は、まさにハンドブックと呼ぶにふさわしい内容である。
本書は、内部統制推進部門、内部監査部門、経理部門等の実務者はもとより、経営戦略立案や事業計画策定に携わるマネジメント層にも共感が得られる内容である。特に、CFOやその候補となるFP&A実務者に手に取っていただきたい。また、企業の事業活動から生じる成果に関する会計処理と開示、そして内部統制を論じた前著『収益認識のポジション・ペーパー作成実務 開示、内部統制等への活用』(中央経済社、2021年)と合わせて読むと、事業活動、会計処理と開示、内部統制の一体性や連動性について、より一層理解が深まるであろう。
木村 秀偉(公認会計士)
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